無借金経営のリスクについて

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無借金経営は財務の健全性を示す象徴であり、安全性が高い経営をしていると思っている方は多いでしょう。
しかし、無借金経営にはレバレッジ効果を放棄することによる成長スピードの鈍化、金融機関との関係性の希薄化などのリスクがあるのです。
無借金が招く、経営上の盲点と持続可能性への危惧を解説します。

無借金経営は絶対的正義ではない

多くの経営者や起業家にとって「無借金経営」は一つの大きなステータスであり、目指すべきゴールのように語られることが多いでしょう。
借金把握で無借金は健全で安全というイメージは、個人の家計感覚としては正解に近いといえます。

しかし、家庭の家計に対する感覚をそのまま企業の経営感覚に持ち込むと、企業をじわじわと衰退させる原因になるのです。
企業における「財務の安全性」と「企業の成長性・持続可能性」は、必ずしもイコールではありません。

無借金経営はたしかに倒産リスクを低減させますが、同時に成長を加速させる最大の武器を放棄していることでもあるのです。
無借金経営の最大のリスクには、財務レバレッジを活用できないことで機会損失してしまうという点があります。

財務レバレッジとは、自己資金だけでなく借入金などの他人資本を組み合わせて投資を行うことで、自己資本に対する利益率(ROE)を跳ね上げる手法です。

例えば、自己資金1,000万円だけで年間100万円の利益が出る利益率10%の事業を行うとします。
自己資金だけではなく銀行からさらに2,000万円を低金利で借り入れて計3,000万円で事業を拡大すれば、単純計算で300万円の利益が生まれるでしょう。

金利の支払いを差し引いても、自己資金1,000万円に対するリターンは大幅に向上することになります。
無借金経営では、投資の規模が常に現在の手元資金である内部留保の範囲内に制限されてしまうのです。

競合他社は融資を受けて大規模な設備投資やIT投資、優秀な人材の獲得、M&Aを急ピッチで進めています。
自社だけがコツコツと貯まった資金で投資をしていては、市場のシェアを一気に奪われて競争に負けてしまうリスクが高まるでしょう。

スピードが命の現代ビジネスにおいて、資金が貯まるのを待つこと自体が最大の機会損失になり得ます。

また、お金を借りる必要がないのだったら銀行と付き合う必要はない、と考えてしまうのは危険です。
無借金経営を続けていると金融機関との関係性が希薄になり、本当に資金が必要になった瞬間に迅速なサポートを受けられなくなるリスクがあります。

銀行などの金融機関は、どれだけ財務諸表が綺麗でも過去の貸出実績や信用などの取引実績を非常に重視するのです。
一度も借入と返済の実績がない企業に対して、銀行は本当に期日通りに返済してくれるのかを疑い慎重にならざるを得ません。

また、融資の審査には相応の時間がかかるのですが、普段から定期的に借入を行い決算報告や事業の進捗を共有している「顔の見える関係」なら審査はスムーズに進むのです。
しかし、全く取引のない状態から突如として「大至急融資をお願いします」と駆け込んでもゼロからの審査となり、資金調達が間に合わないという事態を招きかねません。

無借金へのこだわりは黒字倒産を招くことも

無借金なら不況にも強いと過信していても、突発的な環境変化によって過信が打ち砕かれてしまうことがあるのです。
世界的パンデミックや大地震などの自然災害、あるいは急激な為替変動、原材料高騰など、経営努力だけではコントロールできない危機(マクロリスク)は突然やってきます。

有事の際は無借金企業であっても売上が突然激減する事態に直面すれば、手元の現預金は驚くほどのスピードで底をついてしまうのです。
慌てて銀行に融資を申し込んでも、不況期や災害時には全国の企業から融資申請が殺到して銀行の審査窓口はパンク状態になります。

さらに、業績が急悪化している最中の企業に対する融資となれば銀行側も慎重にならざるを得ないでしょう。
結果として、財務は健全だったはずなのに一時的なキャッシュフローの悪化で資金がショートして黒字倒産になるという悲劇が起こり得ます。

一方で、平時から適度に借り入れを行って手元流動性を厚く確保している企業は潤沢なキャッシュを使って危機の時期を耐え忍ぶことができるのです。
逆に、苦境に陥ったライバル企業を出し抜いて市場への影響力を高め、攻勢に出ることもできるようになるかもしれません。

現代の経営において、資本をいかに効率よく使って利益を上げているかを示す「ROE(自己資本利益率)」などの指標は極めて重要です。

無借金経営は、裏を返せば利益をすべて社内に溜め込んでいて内部留保が過剰な状態になってしまうこともあります。
借入金(負債)がなく自己資本ばかりが膨らんでいくと、分母である自己資本が大きくなるためいくら利益を出していてもROE(自己資本利益率)は低下してしまうのです。

投資家や株主から見れば、せっかく集めた資金を有効活用せずにただ銀行口座に眠らせている効率の悪い経営をしている会社だと評価される原因になります。
特に上場企業や将来的に外部からの資本受け入れ・事業承継を考えている企業の場合、資本効率の悪さは避けなくてはならない事態です。

資本効率を改善しないままだと、株価の低迷やアクティビスト(物言う株主)からの買収提案・経営陣退陣要求といったリスクに直結します。
適度な負債(デット)を抱えることは、資本コストを下げ、企業価値を最大化するために不可欠な財務戦略なのです。

最後の生々しいリスクとして、経営陣のハングリー精神の減退や経営の保守化・硬直化が起こる可能性が挙げられます。
毎月の銀行への返済がある経営環境は、経営者にとって心地よいプレッシャーとして機能することになるのです。

しかし、返済の義務が一切ない無借金経営ではプレッシャーが存在せず、手元に十分な資金がある安心感から緊張感が薄れて経営の甘えが生じやすくなります。
「現状維持は退化の始まり」と言われるビジネスの世界において、無借金がもたらす過度な安心感は企業から危機感を奪い組織を内側から腐敗させるリスクを孕んでいるのです。

まとめ

無借金経営は倒産リスクを抑える防具にはなるものの市場を勝ち抜くための武器にはならず、財務の安全性を過信して成長のための投資機会を逸失するリスクがあります。
また、金融機関との関係が途切れて有事の資金ショートを招いたりするリスクもあるため、企業の持続可能性を大きく脅かしかねないため、無借金への盲信は危険なのです。
適度な負債を「未来への投資の原動力」として、戦略的にコントロールしなくてはいけません。