会社のかなめ、取締役に求められる義務と責任とは?

会社は常に日々決断を繰り返しながら事業活動を行っています。会社の重要な判断を担うのが取締役となりますが、サラリーマンにとって取締役への昇進は一つの目標といえるかもしれません。取締役会で決定した指針に沿って事業活動を行った結果、もし会社や第三者に対して損害を与えた場合、取締役にはどのような責任を負う必要があるのでしょうか。過去、会社に多額の損害を与えたという理由で役員が株主から訴えられ、裁判所は役員メンバーに会社へ損害賠償を命じています。こういった役員のリスクに備えて「役員保険」という聞き慣れない保険があるほどです。この保険は会社の損失を役員が個人で弁償しなければならなかった場合に備えることが目的です。取締役になるということは、どのような義務や責任を担うことになるのかを解説していきます。

取締役の仕事とは?

取締役は、会社の業務執行機関である取締役会のメンバーとして、業務執行の決定に関与し、代表取締役や業務執行取締役(専務や常務)を行う業務について、監査するという責任もあります。

業務執行の決定への関与

取締役の最も重要な職務は、会社の業務執行の決定機関である取締役会のメンバーとして、取締役会に参加して意見を述べるとともに、議決権を行使して業務執行の様々な意思決定に参加します。ここでいう会社の業務執行とは会社法や定款の規定、あるいは株主総会の決議に基づいて会社の日常の経営を行うことです。その基礎となる会社の意思決定は取締役会においてなされます。

業務執行の実行に関する監査義務

取締役は、業務執行の決定をしておけばいいということではありません。取締役が業務執行を行うにあたり、法令及び定款の定め、取締役会において決定した会社の基本的意思に適合しているかどうかを監視する責任も担っています。代表取締役や業務執行取締役の実行内容が、法令や定款に適合しないときは取締役会の決議により是正を命ずることもできるのです。これは取締役の権限というより義務として考えるべきかもしれません。

取締役の2大義務

会社と取締役との間の関係には委任に関する規定に従うものと会社法(会社法330条)で定められています。受任者である取締役は民法(民法644条)の規定により、委任の本旨に従い、善良なる管理者の注意をもって事務を処理する義務を負っています。この義務のことを「善管義務(善管注意義務)」といいます。さらに会社法355条により、法令・定款の定め並びに総会の決議を遵守し、会社のために忠実にその職務を遂行する義務を負うものとされています。
この義務を「忠実義務」といいます。
この2つの義務は、取締役の2大義務としてよく登場しますので改めて詳細を後述いたします。

善管注意義務とは

正式には「善良なる管理者の注意義務」と呼ばれるものです。
取締役は経営の専門家として位置づけられますので、経営の専門家として業務内容を注意深くみていく義務があります。例えば社員が不祥事を起こす可能性が事前に想定される場合は、会社に損害がでないよう事前に是正する義務を負うのです。
単なる従業員と異なり、取締役としての職務に値する注意力が求められることになります。

忠実義務とは

取締役は会社に対して常に「忠実」に行動することが求められています。取締役は自分の利益と会社の利益とが衝突する場合、自分の利益を抑えて会社の利益を優先する必要があります。
忠実義務は取締役個人と会社との利害が対立する場面で問題となるもので、会社を裏切らず、会社に対して誠実に行動することを義務付けているのです。
では具体的にはどのような制限があるのでしょうか?

競業取引の規制

忠実義務の一つとして「競業取引の規制」があります。これは取締役が、自己または第三者のために、会社の事業と競合するビジネスを行うときは、取締役会(取締役会がない場合は株式総会)に対して開示して、その承認を得る義務を負っています。
これは会社の機密を知り得た取締役が、競合するビジネスを自由に始めることができてしまうと、会社の利益が害される事態がおこります。本来、会社や株主が得られる利益になりますので、株主の信任を受けている取締役会が検討したうえで判断するのです。取締役会で検討した結果「問題は起きないだろう」と判断した場合は、この限りではありません。

利益相反の取引の規制

利益相反とは、取締役が自己または第三者のために会社と取引を行うことをいいます。
このような取引を行う場合は、取締会の承認決議を得なければなりません。
なぜこのような取引に規制がかかっているかというと、例えば取締役が所有している土地を会社に買ってもらうケースがあるとします。この場合、取締役が会社・株主からの受託者という立場を忘れてしまい、少しでも高く会社に買って欲しいと思うかもしれません。この場合、会社の利益よりも取締役個人の利益を優先していることとなり、忠実義務に違反することになるのです。
その他の忠実義務としては、会社の経営資源を尊重する義務。守秘義務。インサイダー行為等の禁止などもあります。経営資源を尊重する義務の例としては、従業員を引き連れて新しい会社を立ち上げるなどの行為が該当します。
前述しました通り、取締役には会社を裏切らず、会社に対して誠実に行動することが義務付けられているのです。

取締役の責任

前述のような義務を負う取締役にはどのような責任があるのでしょうか?
取締役がその義務を尽くすためには、日頃から会社法・定款の定め・その他会社の規定をよく認識して、業務内容、財務状況を正しく把握しておく必要があります。
取締役が自己の仕事の重要性を理解せず、代表取締役等の独断を放置し、それによって会社や取引先等に損害を与えた場合には、取締役としての義務違反を問われ、損害賠償の責任を負わされます。この損害賠償責任が取締役としての基本的な責任といえます。

取締役の会社に対する責任

① 任務懈怠(けたい)責任(会社法423条)
取締役がその任務を怠ったときに、会社に対して、これによって生じた損害賠償する責任を負います。
② 余剰金の配当の責任(会社法461条)
会社が違法に余剰金を配当した場合などの支払い義務です。会社が余剰金を株主に配当しようとするときは分配可能額を超える事は許されません。
③ 違法な利益供与に関する責任(会社法120条)
会社は自己またはその子会社の計算において、何人に対しても、株主の権利の行使に関し財産上の利益を供与してはならないとされています。

取締役の第三者に対する責任

取締役は会社に対して委任関係に立ち、善管義務や忠実義務を負っていますが、第三者に対しては特別な関係はありませんので、不法行為責任の要件を満たさなければ、第三者に対して取締役個人が損害賠償を負うことはありません。しかし、取締役の行動が悪意や重大な過失に該当するようなひどいケースで、その結果第三者にまで損害が及んだとき、取締役はその第三者にも責任を負う必要があります。

このように取締役の職につくということは、いくつもの義務や責任を負うということを理解する必要があります。役員生活を幸せなものにするためには、役員の義務と責任についての法律知識を正しく理解していく必要がありそうです。