自社株相続でよくあるトラブル

その他

中小企業では、事業承継の際に自社株を引き継ぐことが多く、特に前経営者が死亡した場合は相続することになります。
しかし、自社株の相続については何も対策をしていなければ、トラブルが起こることも多いのです。
自社株相続において、良く起こるトラブルを解説します。

自社株相続のトラブル①遺産分割

自社株は、経営者が所有している財産の1つです。
経営者が死亡した時は、遺族に相続する権利があります。
しかし、遺族が1人だけとは限らないでしょう。

相続の権利は、配偶者と子どもがいる場合は配偶者が2分の1、子どもが2分の1を均等に分ける形で相続します。
配偶者がいない場合は、子どもだけで均等に分けます。

また、子どもがいない場合は配偶者と直系尊属である被相続人の親が相続し、直系尊属には3分の1の財産が相続されます。
直系尊属がおらず被相続人の兄弟姉妹がいる場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1を均等に分けます。

相続の割合を変える方法は、被相続人が生前に作成した遺言書と、相続人全員の合意のどちらかです。
例えば、被相続人が生前に、自分の後継者となる長男に自社株を全て相続させるという遺言書を作製していれば、残りの相続人は自社株以外の財産を分け合うことになります。

また、全員が被相続人の経営していた会社を存続させるために、だれか1人に自社株を全て相続させるという内容に合意すれば、問題なく自社株を相続できます。
ただし、誰か1人でも反対する人がいれば、相続の権利割合を変えることはできません。

誰か1人が自社株を全て相続しても均等に分け合えるほどの財産があれば、問題はないように思えるかもしれません。
しかし、後継者になることを希望する人が複数人いる場合は、誰が自社株を相続するかで争うことになるでしょう。

自社株相続のトラブル②高額な税金

自社株を相続する際は、高額な税金というトラブルが起こることもあります。
相続の際は、相続税を納める必要があります。
相続税の納税額は、相続する財産の金額によって変わります。

相続税には、基礎控除があります。
基礎控除は、3000万円と法定相続人1人につき600万円なので、最低でも3600万円、法定相続人が5人いる場合は6000万円まで控除されます。

法定相続人が子ども1人だけで自社株を相続する時、自社株の価値が合計3600万円以下なら問題はありません。
しかし、例えば1億3600万円だった場合は、1億円が課税されて1220万円もの税金を納めなくてはならないのです。

しかし、相続であればまだ税金は少ないのです。
経営者が存命中に、後継者へと自社株を譲り渡す場合は、贈与となります。
贈与の場合は、贈与税がかかります。

贈与のメリットは、譲り渡す相手を自分で選ぶことができるため、相続の様に誰が受け取るかというトラブルが起こらない点です。
しかし、贈与税の場合は基礎控除が110万円しかありません。

贈与で1億3600万円相当の自社株を渡した場合の税率は、最高税率の55%となってしまうため、7474万5千円もの税金を納める必要があります。
相続の場合と比べて、約6倍にもなってしまうのです。

後継者が決まったとき、経営者が高齢であればすぐにでも承継して経営を交代したいと思うかもしれません。
しかし、贈与よりは相続の方が税金としてはましなのです。

相続する人のトラブルについては、生前に遺言書を作成しておけば避けられます。
後継者が決まった時点で、遺言書を作製しておきましょう。
また、複数人が分けて所有していても会社の経営はできますが、他の相続人も会社の経営に口を出せるようになるため、場合によっては会社の代表を交代させられてしまう可能性もあります。

また、事業承継においては事業承継税制というものがあり、活用することで贈与税や相続税は納税猶予となるため、すぐに納める必要はなくなります。
猶予を受けてから一定期間要件を満たすことで、猶予された分は免除となるため、税金に悩まされることは無くなります。

税負担なしで事業承継ができるのは、2018年から始まった特例措置によるものです。
特例措置は2024年3月までに特例承継計画を都道府県に提出する必要があるので、当てはまる場合は早急に提出しましょう。

自社株相続のトラブル③親族の要求

相続の際に、遺言書を用意しておけば自社株の相続人は1人に限ることができます。
しかし、相続人が複数いる場合は残った相続人にも遺留分という権利があります。
場合によっては、親族が遺留分を要求することもあるでしょう。

遺留分というのは、遺言書の内容を超えて相続する財産を請求できる権利です。
遺言書によって一部の相続人が財産の大部分を相続したことで自分の相続分が少なくなった時に、遺留分算定基礎財産に遺留分割合をかけて算出した額まで請求できます。

例えば2人兄弟で、兄が自社株を相続するという内容の遺言があり弟は残りの財産を相続することになったが、自社株の価値が5000万円で他の財産が1000万円の場合、弟は兄に2000万円、もしくは相当の自社株を請求できるのです。

遺留分の紛争によって、自社株が分散してしまうと、経営に支障が出ることもあります。
対応策として、民法により特例が定められています。
経営承継円滑化法によって、民法特例が規定されているのです。

民法特例を活用することで、経営者の推定相続人全員の合意を得た上で、経営者が後継者に株式を贈与した際、遺留分基礎財産から自社株を除外する、あるいは算入する際の価値を現時点の価値に固定することができます。

遺留分基礎財産からの除外は除外合意、算入する際に現時点の価値で計算することを固定合意と言います。
民法特例を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

ただし、受け取った自社株を処分した場合、推定相続人は処分した際の価値を基準として算出した金額を後継者に請求できます。
全経営者が存命中に、後継者が会社の経営者から退いた場合も同様です。

まとめ

自社株の相続では、様々なトラブルが起こる可能性があります。
しかし、遺産分割で起こるトラブルについては、遺言書を作製しておくことである程度回避できます。
税負担に関しては、事業承継税制を利用すれば問題はありません。
親族に遺留分を要求されるというケースも、事前に合意を得ておけば解決できるでしょう。
トラブルに備えて、事前にしっかりと準備をしておきましょう。