事業承継には5~10年を要する事も、早めに準備を

経営戦略

現在、日本の中小企業の多くは後継者不足に悩んでいます。
経営者の高齢化も進む中、後継者を見つけて事業承継をしたいと思っている経営者が多いのですが、実は事業承継をするには5年から10年と、長い時間がかかります。
事業承継をするためには、時間がかかることを踏まえて早めに準備をしましょう。

事業承継に時間がかかるのは何故?

事業承継というのは、経営者が他の人に経営のバトンを渡すことです。
バトンを渡すだけなら簡単なように思えますが、事業承継というのはそう簡単にできるものではありません。

事業承継をするということは、経営をすべて譲り渡すということです。
しかし、いきなり会社を経営しろと言われても、分かりましたとすぐにできるものではありません。
他の会社で経営していた経験があるとしても、会社によって経営方法は異なります。

まず、取引先について詳細に把握しておく必要があるでしょう。
電話がかかってきた時や商談に来た時、どんな関係があって何を取引していたのか、会社にとっての重要度はどのくらいかが分からなければ、適切な対応ができないのです。

また、従業員からも認められる必要があります。
いきなり経営者が変わったとしても、従業員がきちんと従うとは限りません。
業務を命じても、先代のやり方とは違うと従ってくれないこともあり得ます。

事業承継をする前に、従業員としてしばらく働いて従業員との間に信頼関係を築くことで、承継後もスムーズに業務ができるでしょう。
また、会社の業務についても覚えることができます。

せっかく後継者を見つけても、承継の準備を進めていく中で経営能力に欠けていることが判明するかもしれません。
経営能力が欠如している場合、後継者の育成をするのに時間がかかってしまうかもしれません。

後継者不足が大きな問題となっている昨今は、後継者候補がいればすぐにでも承継したいと思うかもしれません。
しかし、慎重に資質を見極めてから承継するようにしましょう。

早めに準備をする時はどうすればいい?

事業承継は、一朝一夕には終わりません。
円滑に事業承継を進めるには、10年後を見据えて早期に準備をはじめ、支援機関の協力を得ながら着実に実行していきましょう。

まず、経営者自身が事業承継の準備をする必要性や重要性を認識しなければ、準備を始めることはできません。
経営の課題や状況も把握して、事業承継に向けた経営改善に取り組みましょう。

後継者が親族や従業員の場合は、事業計画や資産の移転などの計画を一緒に策定して、事業承継を実行しましょう。
社外に承継する場合は、承継先を決めるためのマッチングなどを実行して、合意に至った時にM&Aを実行することになります。

事業承継の工程は、5つのステップに分けることができます。
まずは、事業承継の準備の必要性を認識することから始めます。
事業承継は、家族内の問題だと思っている人も多く、外部へと相談できないと考える経営者も多いのですが、まずは家族内の問題という考え方を変えることから始めましょう。

後継者教育などの準備にかかる期間を考えると、経営者が60歳になった頃には事業承継の準備を始めるべきでしょう。
また、60歳になったら準備を始めるということを社会的な認識にするべきです。

支援機関は、どうしても受け身にならざるを得ません。
プライベートなことにも踏み込む必要があり、専門的な幅広い知識や経験が必要となる事業承継問題は、支援機関が積極的に関わることはできないのです。

2つ目は、経営状況や課題を見える化して把握することです。
円滑に承継するためには、現状を正確に把握することから始めなくてはいけません。
把握した内容を元に、強みと弱みを把握して、今後の方針を決定しましょう。

経営状況を見える化して把握するためには、会社を取り巻く環境の変化や経営リスクについても把握する必要があるため、情報収集は欠かせません。
貸借対照表に計上されている資産だけではなく、知的資産なども資産に含まれるため、留意しておきましょう。

事業承継をスムーズに進めるには、課題を見える化して早期に対応しましょう。
まずは後継者候補を確認して、候補がいない場合は社外での候補を検討します。
後継者について反対意見などが出た場合を想定しておき、対応策も事前に検討しておきましょう。

3つ目は、事業承継に向けて経営を改善することです。
親族内承継では相続税対策ばかりが気にされてしまい、事業とは関係ない資産を購入したり、株価をわざと低下させたりすることがあります。

しかし、事業承継は後継者へと資産を受け渡すことなので、経営者は経営の改善に努めて、なるべくいい状態で交代することが望ましいでしょう。
事業に将来性があると、後継者も見つかりやすくなります。

4つ目のステップは、事業承継の計画を立てることです。
しかし、計画書を作成することが最終目的ではなく、経営者と後継者が話し合いながら計画を立てていくことや、計画を活用して事業承継をスムーズに進めることが目的です。

計画を策定する際は、まず中長期目標を設定します。
期間の中で、事業承継を行う時期も明確にしておきましょう。
また、M&Aが必要な場合は1つずつ手続きを進めていきましょう。

5つ目のステップは、事業承継やM&Aを実行することです。
4つのステップを踏まえたうえで、把握した課題を解消しつつ実行していきましょう。
実行する上では、状況の変化を踏まえて計画を修正したりブラッシュアップしたりすることも必要となります。

実行をする段階では、税負担や法的な手続きが必要になることも多いので、弁護士や税理士、公認会計士などの専門家の協力を仰いで、実行するべきでしょう。
M&Aになる場合は、相手探しをしてしっかりと交渉したうえで話をまとめるようにしてください。

まとめ

事業承継は、経営者から後継者にバトンを渡して終わる、というほど単純なものではありません。
事業承継をするためにはまず準備が必要で、後継者がいる場合は様々なことを学びながら、スムーズに経営を引き継ぐことができるよう備えておかなくてはいけません。
事業承継の準備を早めに行うためには、本文中でも説明した5ステップの通りに勧めていくようにしてください。