介護離職による企業リスクとは?

事業運営リスク

人口に占める高齢者の割合が増えている現在、家族の介護をしなくてはいけない人も増えていきます。
その中で、介護をするために退職してしまう介護離職者の人数も年々増加しつつあるのですが、そこに潜む企業リスクについてはご存知でしょうか?
介護離職による企業リスクについて、考えてみましょう。

介護離職をする社員

昔は、家族の介護といえば妻が行う役目、と考えている家も多かったのですが、共働きの家庭も増え、また生涯未婚率も高くなっている現在は、男性であっても介護離職をすることは珍しくありません。

自分の親、もしくは配偶者の親が介護を必要とした場合、自宅での介護であればホームヘルパーを利用することができます。
また、それでは間に合わない場合は、老人ホームに入居するというのが一般的でしょう。

しかし、ホームヘルパーを利用するとしても時間に限りがあるため一人では置いておけないような状態ならそれだけでは間に合わないでしょう。
高齢者が増えていることで老人ホームも満員となっていることが多く、入所したくても順番待ちとなっているところばかりです。

週に1日や2日ならデイサービスやショートステイを利用すれば何とかなるでしょうが、これも毎日利用できるわけではないので、普通に働くためにはやはり老人ホームに入居することを考えなくてはならないでしょう。

ただ、老人ホームの入居費というのは意外に高額です。
毎月の支払いもあるので、一般的な家庭にとっては無視できない金額となるでしょう。
となると、たとえ空きがあっても入居できないことがあります。

その場合の選択肢として、社員は介護離職をすることになるのです。
もちろん、金銭的な意味だけではありません。
自分の両親が、祖父母の介護をしていたものの体調を崩してしまい、このままでは自分が祖父母だけではなく親まで一度に介護することになってしまうと考えられるので、それを防ぐために介護離職を選んだという人もいるでしょう。

また、地元を離れて就職しているものの、両親のうち一方がすでに亡くなっていて、残された親の介護をするため実家に帰るというパターンもあります。
連れてくることができればまだいいのでしょうが、自分の家を離れたがらないという事情もあるのでしょう。

こういった選択を迫られるのは、親が介護の必要な年齢となる40代、50代の社員が中心となります。
その中でも、特に優秀な社員が離職しやすいのです。

介護離職による企業リスク

介護離職によって起こる企業リスクは、この40代から50代の優秀な社員が離職してしまうということにあります。
それはなぜでしょうか?

まず、これまで会社で働いてきて優秀な成績を修めていた社員には、実績があるために自分が優秀だという自覚がしっかりとあります。
それは自信につながるので、たとえ退職したとしても地元でまたすぐにいい就職先を見つけることができる、と考えやすいのです。

優秀な社員でその年代だと、何らかの管理職に就いていることが多いでしょう。
中には、若くして取締役などに就いていることもあります。
そのような人材は、会社でも業務を取り仕切る立場なので、その人が抜けてしまうと業務に支障が出ることも多いと思います。

また、現在の社会は労働者人口の減少によって人手不足となることも多いのですが、その中で自社にとってのエースといわれる人材が抜けてしまうと、その穴を埋めるための人材が育つまでは業績が悪化する可能性もあります。

優秀な管理職は、その部下となる多くの社員に影響を与えます。
その管理職が抜けてしまうと、管理していた部署全体に悪い影響を及ぼすこととなるのです。
そうなると、一人抜けただけとは思えないほど業績が悪化することもあるでしょう。

社員としても、本来なら介護のために退職するのではなく、仕事を続けていたかったと考えている人がほとんどです。
企業にとってもリスクとなる介護離職を避けるためには、企業も支援することを考えなくてはいけません。

介護のための支援について

国としても、介護離職によって労働者が減少するという事態は避けたいので、介護をしている労働者を支援するために様々な制度を設けています。
まずは、その制度から紹介していきます。

家族が要介護認定を受けていて、まとまった日数の休みが必要となった場合は、その対象となる家族1人につき最大で通算93日間の休業を申請できる、介護休業制度というものがあります。
これは、最大で3回に分けて取得することが可能です。

数日まとめてではなく、1日や半日などの単位で休む場合は、介護休暇制度というものを利用できます。
これは、介護が必要な家族1人につき年間で10日までの休暇が可能となる制度で、家族に付き添いが必要な時などに利用します。

介護が必要となった時に、労働時間を短縮して対応することもできます。
その際は、労働時間そのものを短縮するか、もしくはフレックスタイムとして勤務時間を調整するか、または始業時間や就業時間を繰り上げや繰り下げなどの形で変更するか、もしくは介護サービス費用を助成するか、といった措置の中から選択することができます。

残業や深夜業務がある仕事をしている場合には、そうした時間外労働を免除してもらうこともできます。
特に、看護師などは勤務時間が安定していないため、このような措置が必要となることも多いでしょう。

そもそも、国では介護が必要な家庭のために、介護保険制度を設けています。
この介護保険制度を利用するだけでも、かなり負担は減ることになるでしょう。
何が利用できるのか、まずはケアマネージャーに相談することから始めてみましょう。

こうした国の支援制度も重要ですが、それだけではなく企業も独自に社員を支援していくような取り組みを考えていくことが大切になるでしょう。
実際に、介護支援に取り組んでいる企業も増えているので、どのような取り組みをしているのかを知っておき、自社での導入も検討してみましょう。

大手家電メーカーでは、介護休業を会社の規定で通算1年と定めていますが、そのうち6か月間は基準内賃金の7割を支給することとして、それ以降は4割を支給するという制度を設けています。
他の企業では、1年間のうち9か月は給与の5割を支給するとしているところもあります。

また、大手住宅メーカーの中で、転勤などを理由として老人ホームなどに入所している親と離れてしまった社員については、年4回を上限として帰省するための旅費を距離に応じて補助する、という制度を設けています。

また、従業員の介護離職を防止するために、介護事業に参入するという思い切った対応をしている企業もあります。
従業員の面談を行った際に、介護に関する相談が目立って増えていたことから、人手不足とならないように離職を防止するため、介護施設を運営するという決定を下したのです。

それぞれの企業によって、可能な対応は異なってくるでしょう。
しかし、何もしないで介護離職を受け入れるのではなく、自社でできる対応は何か、会社には何を求められているかということを把握して、従業員が長く働けるように気を配ることで、介護離職による人手不足対策になるのではないでしょうか?

まとめ

働き盛りの40代、50代の会社員は、企業にとって重要な人材が多いでしょう。
しかし、現在はその親の世代が介護を必要とすることが多くなっているので、介護のために仕方なく会社を離職するという介護離職が増えてきています。
介護離職は、働きながらでは介護ができないという理由で離職していくので、それを防ぐには企業が社員のために介護を補助するような制度を作っていかなくてはいけません。
介護離職を考えている社員が、会社に求めているのはどのようなことなのか、それを知ったうえで会社ができる補助を考えてみましょう。