大きく動く為替にはどんな対策が必要とされるのか

その他のリスク

現在、1ドルが148円台後半と、32年ぶりと言われる円安になっています。
それによって、物価も上昇してしまい国民の生活に多くの影響が出ています。
この円安の状況では、どのような対策が必要とされるのでしょうか?
円安によって起こる問題の対策について、解説します。

急激に進む円安

2020年に入ってから、ドル円レートはかなりの円安へと傾いています。
2022年3月には1ドル115円前後だったのが、5月には130円を突破、その後少し小康状態になったものの、8月には140円近くまで上がりました。
そして、9月に入ってからはとうとう140円を超えてしまったのです。

ドル円レートは、1985年のプラザ合意までは1ドル200円を超えていました。
しかし、ドル高の状態を解消したいアメリカにより、ドル高を是正するプラザ合意という協調行動が発表されたのです。

それ以降、ドル円レートは1ドルあたり168円、128円と下がっていき、1995年には100円を切っていました。
2012年には、過去最低となる79.79円になっています。

しかし、そこから徐々に円安となっていき、2014年は100円を超えており、100円から120円の間を行ったり来たりしていたのです。
それが、2022年になってからかなりの円安になりました。

現在のドル円レートは、前年比で3割前後上がっています。
そのせいで、輸入物価は伸びてしまい、消費者物価も前年比3%前後まで押し上げると思われます。

この円安が急激に進んだ背景には、日米金利差の拡大があります。
FRB、ECBと政策金利を引き上げているのに対して、日本は0.1%のマイナス金利を維持する姿勢を見せています。

この状態が続いていると、人々は円を売り、ドルを買うようになります。
そうなると、円の価値は下がりドルの価値は上がるので、円安になります。
円安を食い止めるには、まず日銀の現状のマイナス金利を是正する必要があるでしょう。

黒田総裁は、マイナス金利については必要と判断すれば躊躇せずすぐに追加緩和すると述べているので、それと同時に必要ならマイナス金利の是正もあり得ると言えばいいのです。
可能性の範囲内で緩和とマイナス金利是正を両論併記して答えることで、期待の形成には大きなインパクトを与えるでしょう。

ただし、これを言った場合は物価目標の2%との不整合が気になる人もいると思います。
これについて、黒田総裁は現在の輸入インフレが自身のイメージである賃金上昇を伴う物価上昇とは異なると述べているため、2%の目標を達成するために輸入インフレを必要としないのであれば、円安是正のために動いても違和感はないでしょう。

日銀は、政府との間で共同声明を出し、2%目標を追求すると約束しています。
それなら、日銀に対して政府が円安是正に協力するよう強く訴えれば、日銀も動いてくれるでしょう。

外貨の動き

近年の各国の通貨政策の中で、通貨安に最も影響が大きかったものと言えば、ロシアの通貨防衛策でしょう。
ウクライナ侵攻が始まってから、ルーブルがかなり売り込まれたため、ロシア政府ではそれを食い止めるために大統領令で資本規制を導入したのです。

輸入企業に対しては、外貨を取得した場合にその80%を、3営業日以内にルーブルへと交換することを義務化したのです。
そうしてルーブルを買わせることで、通貨安を食い止めたのです。

日本で同じことをするのは、さすがに無理があります。
しかし、それに近い発想として日本企業に対し、保有しているドルを円に交換するよう促すことであれば可能でしょう。

具体的には、資金循環(レバトリエーション)の促進策を検討することです。
日本企業の海外子会社には、2021年3月時点で37.6兆円の内部留保が抱え込まれています。
その外貨資金を日本国内に入れる際に、税制優遇を検討するといいでしょう。

為替差益に対しては課税しない、あるいは設備投資や賃上げに用いるのであれば損金として扱うなどの方法を用いることで、外貨資金の国内還流が進み、円高への圧力となるでしょう。

それにより、円安の動きに歯止めがかかります。
円安の状態で生産力の増強をすることで、今後の輸出拡大にもつながります。
レバトリ減税を行うと、円安緩和と国内需要喚起、将来の輸出促進という3点でメリットがあります。

米国では、2005年にレバトリ減税を実施したことがあります。
ブッシュ政権下で時限的に行われたもので、米企業が持つ1兆ドルの海外内部留保のうち3600億ドルが自国還流したと言われています。

2017年に、トランプ政権下でも再び行われています。
日本もそれを見習い、日本企業の海外内部留保を時限的でも税制優遇することで、2~3割程度を還流させることができれば、景気刺激策としても有効でしょう。

これは、長らく円高になることを避けようとして、行うことができなかった政策です。
今の円安の状況こそ、これを行う好機でしょう。
円安から回復すると効果が薄れるため、なるべく早く行うことが望まれます。

政府では、物価を大きく引き下げることには限界を感じていると思われます。
財政資金を投じて、現在高騰しているガソリンや小麦などを引き下げることができたとしても、それはわずかな幅でしかできません。

そこで考えたいのが、外貨準備の含み益を活用する方法です。
例えば、過去に為替介入のため円高の状況で取得したドル資金を、電力会社や石油の元売りに貸し付けます。

その資金を使って天然ガスや原油を取得してもらい、資金の返済は円にしてもらうのです。
返済時の為替レートは、政府が外貨準備を取得した時点のレートやそれに8%のプレミアムを引き上げたレートにすることです。

それにより、電気・ガス料金や石油製品価格の引き下げが可能となるのですが、一時的に引き下げられたとしても支援期間が終わった時点で、その効果は切れてしまうということです。

結局、時間を買う一時しのぎにしかならないのです。
また、エネルギー価格を引き下げることは、脱炭素化に反することになるかもしれません。

エネルギー価格は、国民の生活に大きく関わるものですが、脱炭素化社会についても取り組んでいく必要があります。
引き下げを目指すのであれば、そのバランスについても考えるべきでしょう。

まとめ

現在の円安傾向は、いつまで続くことになるのかがはっきりとしません。
また、政府の方針は円安の阻止なのか容認なのかも、はっきりとしていないのです。
それでも、このまま円安が続くと国民の生活には支障が出てしまうことになるでしょう。
今後の動向に注視していきましょう。