知床遊覧船事故から学ぶヒューマンエラーと安全管理規定

事故・災害リスク

2022年に起こった知床遊覧船の事故は、痛ましい事故としてまだまだ記憶に新しいでしょう。
この事故には、多くのヒューマンエラーと安全管理規定の甘さがありました。
もう二度とこのような事故がないように、どのようなヒューマンエラーや安全管理規定の問題が事故につながったのかを学んでおきましょう。

知床遊覧船事故の原因

2022年4月、北海道知床で衝撃的な事故が起こりました。
乗客と乗員、計26人を乗せた遊覧船が遭難してしまったのです。
乗務員は船長と甲板員各1名の合計2名で、乗客は子供2人を含む計24人です。

その船は当日10時に出向したのですが、13時頃に帰港していないことがわかり連絡を取りました。
その時は返答があり、特に切迫した様子もなく帰港に時間がかかると船長が応答しています。

しかし、その数分後に無線で問いかけた時には状況が大きく変化していて、無線の向こうからは救命胴衣を着せろという指示が聞こえてきて、船長に呼び掛けたところエンジンが止まって船の前方が沈みつつある、という返答があったのです。

その後、海上保安庁に救助を要請したのが事故の第一報となり、その後船長にも救助を要請するよう伝えたのですが、それ以降無線は通じなくなりました。
通報の位置情報と後から船体が発見された地点との位置関係から、通報をした後間もなく沈没したものとみられています。

乗客の中には沈没の直前に電話が通じたという人もいて、佐賀県の男性は妻に電話をかけて最後のお別れをしていました。
また、船からは14時頃に知床遊覧船の事務所に乗客から借りた携帯電話からの連絡があり、船が傾いているという報告がされていました。

その後、海上保安庁や海上自衛隊、航空自衛隊、北海道警察、民間などが協力して捜索を行っていて、6月まで続けられました。
6月末までに16人の遺体が見つかっていて、行方不明者は残り10名となっているのですが、ロシアで見つかった遺体が現在確認中です。

この事故が起こった原因として、まず当日の悪天候があります。
当日は、風速15.0m/s以上になるという強風注意報が発令されていて、さらに出港直前には波の高さが2.0~2.5mになるという波浪注意報が発令されていました。

この時点で、運航基準に基づいて出航を中止するべきと定められている条件である、風速8.0m/s以上、波高1.0m以上という条件に達してしまう可能性は十分にあったのです。
出港したウトロ漁港は、出港した10時頃は波高32センチメートル程度だったのですが、11時40分頃から上昇していき12時20分には1.0mを超えていたのです。
そして、13時18分頃には3mを超えていたのです。

また、沈没したKAZUⅠの船長は当日の朝に他の観光船運航会社の従業員と話していて、そこで今日は海に出ないほうがいいと言われていたのです。
ウトロ漁業協同組合によると、昼頃からは視界も悪化して波も高くなったため、漁船は午前中に戻っていたということでした。

しかし、悪天候ばかりが原因ではありません。
そこには、事故が起こるべくして起こった原因となる、ヒューマンエラーがあったのです。

ヒューマンエラーと安全管理規定

この事件では、まず天候が悪化することが予報されている中で、出港することを判断した船長、および社長の判断ミスというヒューマンエラーが生じています。
社長の発言には、天候の悪化に従って引き返すことを条件として乗客に納得してもらったというものもありますが、乗客には危険性の判断ができないでしょう。

また、船長は免許こそ持っていますが、知床観光船での経験は浅いため天候などの判断が正しくできる経験値は持っていないでしょう。
こういった判断ミスが、重大な事故につながったという見方をされています。

船長は、まず経験不足であることを認識し、それを会社にリスクとして申し出ておくべきだったでしょう。
また、これは党の船長だけではなく、ほかの船の船長も会社に意見しておくべき点です。

緊急連絡の手段として携帯電話も支給されていましたが、今回の事故が起こった海域では携帯電話の電波が届いていませんでした。
それに加えて、会社の無線も故障していたのです。

事務所の無線は、アンテナが1月から破損したままの状態となっていて修理がされていなかったため、無線通信ができなかったのです。
そのせいでこまめな連絡ができなかったため、事故につながったという可能性もあります。

無線機については、携帯電話では連絡が十分できないエリアがあることを把握せずに無線の修理を怠り、当局に届け出た内容について認識していないというエラーがあります。
また、これには規制する当局のチェック不足もあるでしょう。

こういったヒューマンエラーが起こる背景には、安全管理規定について十分に理解していなかったということもあるでしょう。
そもそも、安全管理規定はなぜ国が基準を設けるのではなく、旅客船の運営会社にその書類をゆだねているのかを考えておくべきでしょう。

日本は世界全体から見ると小さい国ですが、それでも東西・南北に3000kmあり、島まで含めると海岸線は3万km以上もあります。
そして、北海道から沖縄まで様々な海があり、同じ日本の海でも大きな違いがあるのです。

海は、地域によって水温や風力、海底や海岸の地形、波の高さや形など、それぞれ異なっています。
そのため、共通した安全管理規定を作成しようにもできないのです。

そのために、安全管理規定は運営を行う各社が出向に関しての波や視界、風力などの規定を設けて運航ルールを作成し、当局に届け出ることと定められているのです。
各社が制定する安全管理規定は、それぞれが受け持つ命を預かる責任の下に定められるべきなのです。

そして、この規定の中には条件付き運航という規定が一切存在しません。
出港できる条件を満たしていない場合は、出港してはいけないのです。
それを守ることなく出港した結果が、今回の事故でしょう。

まとめ

知床遊覧船事故の原因ともいえるヒューマンエラーは、多少の手間をかければかなりの範囲で防ぐことができるでしょう。
ヒューマンエラーを防ぐには、明確なルールを設けたりダブルチェックを徹底したりすることが有効です。
また、安全管理規定は自社が命を預かるうえでの責任について定めるものです。
これも、不備がないようしっかりと作成し、関係者はそれを順守できるよう内容についてしっかりと把握しておくべきでしょう。