近年、ニュースや新聞で政府や日本銀行が為替介入を実施したという言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。
為替は本来市場の取引で決まるものですが、政府がなぜ介入する必要があるのか疑問に思った人もいるのではないでしょうか。
なぜ政府が為替介入をする必要があるのか、主な理由について解説します。
為替介入はなぜ必要なのか
基本的なこととして、そもそも為替介入というのは、誰がどのようにして行っているのでしょうか?
為替介入の最高意思決定権があるのは財務省、そして財務大臣で、財務省が国内経済の状況を鑑みて介入の必要性を判断します。
執行を担当するのが日本の中央銀行である日本銀行で、日銀は財務相の代理人として支持を受けて実際の市場で資金を動かす実務を担当するのです。
為替介入には、日本政府が自国の資金だけで行う単独介入とアメリカや欧州など他国の中央銀行と足並みを揃えて同時に行う協調介入があります。
効果が高いのは後者ですが、各国の利害関係が一致する必要があるため実施のハードルは非常に高くなってしまうのです。
政府が莫大な国力を投じて為替市場を操作しようとする背景には、いくつかの経済的、社会的な理由が存在します。
政府が最も警戒しているのは為替レートの絶対的な水準、つまり1ドル=何円かということよりも、むしろ変化のスピードです。
短期間に10円、20円と乱高下するような高いボラティリティの状況は、企業にとって最大の敵となります。
輸出入企業は将来の取引価格を予測して経営計画を立てますが、為替が激しく動くと価格設定や決算の見通しが全く立たなくなるのです。
不確実性を排除し、市場に落ち着きを取り戻させることが為替介入を行う第一の理由となっています。
過度な円安が進行すると、海外から輸入する原油、天然ガス、食料品、原材料などの価格が日本円ベースで跳ね上がってしまうコストプッシュ型インフレが起こるでしょう。
日本はエネルギーや食料の多くを海外に依存しているため、急激な円安はダイレクトに電気代やガソリン代、食品価格の上昇へと直結して家計を圧迫します。
政府は、国民の消費生活や中小企業の経営が物価高で破綻するのを防ぐために、円安を阻止するための円買い介入を行うのです。
逆に過去のリーマンショック後などのように過度な円高が進むと、日本の基幹産業である自動車や電機などの輸出企業の業績が激しく悪化します。
海外での販売価格が高くなって競争力を失うか、現地価格を維持して日本円に換算した際の利益が激減するためです。
輸出企業の業績悪化は、国内の工場閉鎖や下請け企業へのシワ寄せ、ひいては雇用の喪失や失業率の上昇へとつながります。
国内の産業空洞化を防いで景気の急落を阻止するために、円高を阻止するための円売り介入が必要となるのです。
外国為替市場には、実際の貿易取引だけではなく短期的な価格差から利益を得ようとするヘッジファンドなどの投機筋も多数参加しています。
市場が一定の方向に傾くと投機筋が一斉に同じ方向の注文を出してトレンドを増幅させ、実体経済から乖離した異常な値動きを作り出すこともあるでしょう。
政府は、行き過ぎた動きにはいつでも立ち向かうという明確な意思を市場に示すことで、投機筋の行き過ぎた暴走を牽制する狙いを持っています。
具体的な為替介入の方法と効果
為替介入は、円安局面と円高局面で全く異なる軍資金と手法を用いて行うのですが、それぞれどのように行うのでしょうか?
円安局面では円の価値を上げて円安を止めたいので、市場にあるドルを買い取って代わりに円を買い支えます。
円安の際に使われる原資は政府が過去に蓄積してきた外貨準備、主に米国債やドル現金などです。
ただし外貨準備の量には上限があるため、円買い介入は理論上手持ちのドルが底をつくまでしか行えません。
そのため、市場からは弾薬に限りがあると見透かされやすく、難易度が高い介入とされているのです。
円高局面では円の価値を下げて円高を止めたいため、市場に大量の円を放出してドルを買いあさります。
円高の際、政府は政府短期証券という短期の国債を発行して市場から日本円を一時的に借入して調達し、原資として円売りを行うのです。
日本政府は自国通貨である円建ての国債を理論上はいくらでも発行できるため、円売り介入の原資は無限に近く市場への圧力を持続させやすいという特徴があります。
為替介入は強力な抜本策に見えますが、万能ではなく強力な薬ゆえの限界や副作用も存在するため簡単にはできないのです。
数兆円規模の資金を特定の時間帯に一投する為替介入は、実施された直後に為替レートを数円単位で一気に動かす強力なインパクトを持ちます。
トレンドの一方的な進行をストップさせることができるため、市場参加者に警戒感を植え付けることには確実に成功するでしょう。
しかし、為替の長期的なトレンドは二国間の金利差や経済成長率、貿易収支などの経済基礎的条件によって決まります。
ファンダメンタルズと呼ばれる要因が重要なので、ただ為替介入しただけでは変えることができないのです。
例えば、アメリカが利上げを続けて日本が低金利を維持しているため金利差が開いている状況では、どれだけ政府が円買い介入をしても効果はあまりありません。
金利の高いドルを持ち、金利の低い円を売りたいという世界中の投資家の本流を堰き止めることは不可能なのです。
介入は根本的な解決策ではなく、あくまでも時間を稼いで変化を緩やかにする不時着の技術でしかありません。
為替市場はグローバルに繋がっているため、一国が自国の都合だけで勝手に為替を操作することは他国との貿易摩擦を生む原因になるでしょう。
特にアメリカは他国が自国通貨を意図的に安くして輸出を有利にすることを極端に嫌い、定期的に各国を為替操作国や監視対象国としてチェックしています。
日本政府も自由に何度でも介入できるわけではなく、国際社会への根回しや大義名分が必要となるのです。
まとめ
政府が為替介入を行うのは単に特定の数字に固執しているからではなく、市場のパニックを鎮静化して国民の生活や企業の平穏を守るための防衛策として行っています。
また、投機筋への牽引と牽制という役割もあり、投機筋がトレンドを増幅させた際に行き過ぎた動きになった場合は為替介入で牽制するのです。
しかし短期的には大きな効果があるものの長期的なトレンドは変えることができず、貿易摩擦の原因となることもあります。

