郵政民営化の大罪

その他

かつて小泉政権において実施された郵政民営化は、国営で運営されていた郵便などの事業を民営化するという法案でした。
現在ではすでに完全民営化したと思われているかもしれませんが、実は想定通りに進められてはいないのです。
郵政民営化の大罪と呼ばれている問題点とは何か、解説します。

郵政民営化の邪魔をする全特

郵政民営化というのは、従来は国営だった郵政事業を民営化するという政策で、郵便、簡易保険、郵便貯金の3事業を対象としたものです。
郵便局では郵便配達以外に郵便貯金と簡易保険の業務があり、銀行の経営破綻によって国営の郵便局には多額の資金が集まっていました。

郵便局では資金を日本国政府に貸し出し、政府では日本国債の購入や旧日本道路公団、住宅金融公庫など特殊法人への貸し出しのための資金に充てていました。
政府から借りた公団や特殊法人は、郵便局に集まる郵便貯金をあてにして費用対効果を考えず活動しており、赤字の高速道路を漫然と作るような状況となっていたのです。

状況を鑑みて、郵便局が政府に資金を融通するという構造をやめて、特殊法人は民間会社として自己での資金調達をすることとなりました。

また、郵便局の業務も民間の仕事にして、銀行業務や保険業務の資金は創意工夫して収益を上げることというのが郵政民営化です。
2007年の時点で、日本郵政は今までなかった法人税をはじめとした租税を課されることとなり、経営に関しても政府から保護されなくなりました。

しかし、政権交代に伴い民主党連立政権の国民新党によって、郵政民営化は予定通り進まなくなってしまったのです。
本来は日本郵政株を政府保有から処分していくはずが、しばらくは100%保有したままとなり、第二次安倍内閣になってようやく民営化が進んで上場が承認されました。

民営化においてどうしても進めることができなかったのが旧特定郵便局の統合で、赤字郵便局の統廃合も進めることはできませんでした。
旧特定郵便局等は、窓口業務を主に行っている数人の局員による小規模な郵便局で、全国の郵便局の75%以上を占めています。

局長の採用は一般職員とは異なる公募で行われていて、世襲で選ばれることも多く定年まで異動しないことも珍しくないのです。
特定郵便局の局長は民営化されるまでは国家公務員の地位にあり、国から局舎料や地域活動のために前払いの経費として巨額の渡切費なども受け取っていました。

しかし、2001年に不正が発覚したため2003年以降は渡切費が廃止されたのですが、いまだに年1回の総会は行われており2025年には札幌ドームに1万人集まる予定です。
参加費は1人20万円ともいわれ、自己負担による強制参加であることから経済的負担の大きさに対し不満の声も上がっています。

郵便局長が金銭的な不祥事を起こしたことは過去に何度もあり、背景には全国特定郵便局長会、全特の慣行があると指摘されているのです。
全特と、全特による票圧力を受けた郵政族によって郵政民営化が歪んでしまったという報道もあり、郵便局の数を減らすことができなかった原因ともなっています。

歪んだ郵政民営化の大罪とは?

本来の想定では事業ごとに独立採算となるはずだったのですが、国民新党によって歪んでしまった結果完全分離ができなくなったのです。

また、郵政族議員は郵便局網を維持するという名目で政府から多額の資金を投入する改正案を国会に提出しようと考えています。
法案の提出に伴い、日本郵政の社長には過去初めてとなる旧郵政官僚出身の根岸一行氏が就任しました。

現場での顧客情報の不正流用問題、配達員のアルコールチェックを怠っていたことなど不祥事が相次いで発覚したことで、増田寛也前社長は引責辞任となったのです。
日本郵便、かんぽ生命保険株式会社の社長も旧郵政官僚出身者なので、4社中3社が元官僚となり、民営化に真っ向から反抗しているともいえます。

郵政族議員が経営人事に介入しているのは全特の意向とも言われており、同時に郵便局の統廃合についても全特の猛抗議によって着手できずにいるのです。
郵便局網を維持するため、年間で650億円の財政資金を投入するという郵政民営化法改正案が自民党内で了承されており、実質的には国民が赤字を負担することになります。

郵政民営化において大罪となるのは旧特定郵便局を残さざるを得なかったこと、全特に逆らうことができないことでしょう。
特定郵便局の局長は転勤がなく世襲も多いため、外部監視が難しく地域の信頼を悪用しているケースも多々見られています。

例えば、長崎市では元局長が父親の跡を継いでから25年にわたり、50人以上の顧客から計10億円以上を搾取していたのです。
元局長は退職後も郵便局の応接室を利用して、金融詐欺を行っていたことが明らかとなっています。

きっかけとなったのは被害者の一人が預けた貯金を解約できないと相談したことで、社内調査の結果元局長が不正を行っていたことを認めたのです。
架空の高金利の特別な貯金などの名目で現金を集めており、住民の信頼を利用した長期的な詐欺行為であることがわかりました。

2019年には、福岡県の地区統括局長が部下の局長に対して、仲間を売ったらつぶすと脅迫するパワハラ事件も発生しているのです。
被害者7人が民事訴訟を起こし、刑事事件としても強要未遂時で起訴されており、長期にわたる特権が不正を助長したといわれています。

郵政民営化に伴って不正の温床となっている全特がなくなるはずだったのに、残ってしまったのは郵政民営化の大罪といえるでしょう。
しかし、全ての特定郵便局で不正が行われているわけではないので、定期的な監査などを行って不正の早期発見に努めることが大切になります。

まとめ

郵政民営化により、郵便局は国営から民営化となり事業ごとの独立採算となるはずだったのですが、郵政族議員の邪魔が入り全特にも邪魔されたことで、半端になったのです。
全特は特定郵便局といわれる郵便局全体の75%以上を占める小規模な郵便局の局長を取りまとめる組織ですが、総会にかかる高額な費用などは局長を苦しめています。
特定郵便局は世襲も多いことから、長期にわたる不正が行われることも多いのです。