ALPS処理水の海洋放出決定で、中国や韓国との分断リスクを考える

企業の賠償リスク

福島第一原子力発電所が、2011年の東日本大震災で事故を起こしたことは、いまだに多くの人の記憶に刻まれているでしょう。
原子炉内の汚染水は処理されて海に放出されることとなったのですが、中国や韓国では猛反発が起こり、分断リスクも生じています。
ALPS処理水の安全性と、分断リスクについて解説します。

ALPS処理水は安全なの?

2011年に発生した東日本大震災の被害は甚大なものとなりましたが、被害が大きくなった原因の1つが福島第一原子力発電所で起こった事故です。
発電所の原子炉は廃炉作業が進められていますが、終わるまではまだまだかかるとみられています。

原子炉建屋内では、放射性物質が含まれた汚染水が発生しています。
汚染水は、原子炉内の燃料を冷却するためにかけているもののほか、地下水や雨水が流入したものなどがあります。

当初は、タンクに貯めておく予定でした。
しかし、廃炉作業の終わりが見えない中でタンクの数も1000を超えたため、スペースも足りなくなりました。

発電所の周囲には、廃炉作業を安全に進められるよう、新しい施設を建設する必要があります。
スペースを確保するために、汚染水を処理してタンクを撤去しなくてはならないのです。

タンクを減らすために、汚染水は処理を行って安全性を確認したうえで、海洋放出をすることが決定しています。
汚染水の処理は多核種除去設備(Advanced Liquid Processing System)、通称ALPSによって行われます。

ALPS処理水は、汚染水に含まれる放射性物質を安全基準以下まで浄化するもので、トリチウムは浄化できないものの、海水で安全基準を満たすまで十分に薄めます。
国で定める安全基準は、国際放射線防護委員会の勧告に従って定めています。

汚染水については本来、事故を起こした東京電力の責任で処理するものです。
しかし、事故直後はもちろん、2013年にも海へと漏洩があるなど不安視されることがあったため、国民の安全に関わるものと判断して国が対策することになったのです。

2020年に方針が決定し、ALPS処理水が安全かどうかを確認したうえで2023年から海洋放出を行うことと決定しました。
しかし、国内だけでも多くの反対意見が上がったのです。

中国や韓国との分断リスク

日本の隣国といえば、中国や韓国が主です。
日本がALPS処理水を海洋放出することについては、中国や韓国からも反対意見が多数出されました。

中国や韓国では、ALPS処理水のことをあくまでも汚染水と呼び、放射性物質を浄化したといっても、海を汚すものだ、流すべきではないと強く反対する姿勢を見せています。
しかし、実は中国の方がよほど海を汚しているのです。

韓国メディアが5月に報じたニュースでは、中国の原子力発電所から排出されるトリチウムは、福島の処理水と比べると最大6.5倍にもなると報じされているのです。
特に多いのが、遼寧紅沿河原子力発電所です。

しかし、中国は自国の原子力発電所には触れず、日本のALPS処理水について批判の姿勢を見せています。
8月末には、中国政府からのコメントが駐日中国大使館のホームページに海洋放出に関するコメントが掲載されています。

1つ目のコメントには、トリチウムについては希釈・処理されていることを述べているものの、他の核種の説明がないという点を指摘しています。
また、ALPS処理水には60種類以上の放射性核種が含まれていて、多くは有効な処理技術がないと述べています。

たとえ安全基準を設けて基準値を満たしていても、存在しないというわけではないため、海洋放出することで人体や海洋環境に予期せぬ被害があるかもしれないという意見も述べています。

日本政府では、ALPSは62種類の核種を確実に除去できるよう設計されているものの、現実的に存在すると考えられるのは29種であり、 IAEAにも選定方法が十分に保守的であり現実的と評価されています。

つまり、中国の主張は科学的根拠もなく、IAEAの見解とも異なっているのです。
また、海洋放出については国際的基準並びにガイドラインに沿って行われ、影響も無視できるレベルだと認められています。

もう1つの中国政府のコメントには、日本のモニタリングは各種と海洋生物のどちらも不十分なので、ALPS処理水が無害とは言い切れないということを主張しています。
また、東京電力がサンプリングしたデータでは信頼できないとも言っています。

しかし、モニタリングが不十分と言う指摘は間違いであり、基準を定めて幅広く行っています。
また、データについてはIAEAのレビューも受けていて、レビューには中国の専門家も参加しています。

3つ目には、IAEAのモニタリングメカニズムは他国や国際機関が現場に参加していないため、本当の国際モニタリングとは言えず透明性が欠けている、と主張しています。
日本では、長期的モニタリングの国際的取り組みを立ち上げるべきだ、としています。

しかし、海洋放出についてはIAEAレビューの取り組みの下、複数の第三国分析・研究機関がIAEAから選定されています。
ALPS処理水の海洋放出も、安全性に万全を期して進めているのです。

上記のように、中国では安全性を疑う様々な主張をしているのですが、根拠に乏しい言いがかりのような内容も少なくありません。
安全性には十分気を使っているので、きちんと反論できる内容ばかりです。

しかし、中国や韓国が反対するのは、気持ち悪いというのが根底にあるからです。
例えば、水たまりの水をきれいにろ過して煮沸したとしても、なんとなく汚い気がするから飲みたくない、という人は多いでしょう。

中国や韓国も、いくら汚染水をALPSできれいにしたからといっても、やはり放射性物質が含まれていた水というのは怖いと思います。
処理水も、飲用には作られていないものの、もし飲めますといっても飲みたがらない人は多いでしょう。

すでに中国国内では日本企業の製品を買わないという人も増えていて、放置していると中国や韓国とは分断されるリスクもあります。
分断リスクを下げるために、相互理解を深めていくべきでしょう。

まとめ

2011年の東日本大震災で福島第一原子力発電所が事故にあったことで、汚染水が貯まってしまったため、汚染水はALPSで処理したうえで海洋放出することが決まりました。
しかし、中国や韓国からは反対の声が多く、危険性についても大々的に主張されているのですが、多くの主張は科学的根拠に乏しいものです。
韓国や中国が抱く不安はきちんと解消して、相互に納得したうえで海洋放出を行わなければ、分断リスクが高まるでしょう。