税務調査に訪れる調査官は、質問検査権という権利を有しています。
この権利は、どのような効力を持つものなのでしょうか?
また、調査官が質問検査権を行使した時、それを拒否した場合はどうなるのでしょうか?
税務調査における、質問検査権とはどのようなものなのか、解説します。
質問検査権とは?
税務調査の際は、税務署員が調査官として会社を訪れます。
その時、調査官には調査に必要な権利として質問検査権を与えられています。
この権利は、どのようなものなのでしょうか?
質問検査権は、適正公平な課税の確保の観点から納税義務者に対して質問する権利、及びそれに関係する帳簿書類などの物件の検査やその提示・提出を求める権利のことをいいます。
税務調査の際は、担当者からこの権利を有していると言われるケースもあります。
それは、調査を行って資料の検査や必要事項の質問、資料提出を求める権利には法的根拠があると示しているのです。
質問検査権の対象はいくつかあり、まずは所得税が挙げられます。
これに関しては、納税義務者や確定損失申告書等の提出を行った者、支払調書や源泉徴収票、信託計算書などの提出義務がある者、またはそれに対して金銭や物品を給付する権利義務がある者やあった者などが対象となります。
法人税の場合は、その法人や法人に対して金銭を支払うか物品を譲渡する権利義務を有する者が対象です。
消費税は、その納税義務者や還付を受けるための申告書を提出した者、あるいはそれに対して金銭の支払いや資産の譲渡などの権利義務を有する者が対象となります。
これに該当する人は、必要に応じて質問には正確に回答し、その人の事業に関する帳簿書類などを提示・提出することが求められます。
この他、相続税や贈与税、酒税、たばこ税などの調査においても質問検査権は与えられます。
質問検査権を拒否した場合はどうなる?
質問検査権は、あくまでも納税者等に対して質問をして、必要な書類などの提示を求める権利です。
権利だけなら、拒否すればいいのではないかと思うかもしれませんが、実はそうではないのです。
納税者は、質問検査権に対して原則的に応じる義務があります。
そのため、特別な理由がない限りは拒否することが認められていません。
だからといって、税務調査官が何をしても許されるというわけではないのですが、それでも大きな効力でしょう。
例えば、調査官の物理的強制行為は質問調査権で認められる権利ではありません。
拒否したからといって、無理矢理に調査することはできないのです。
これは、過去に最高裁判所でも判決が出されています。
質問検査に応じるかどうかは自由としながら、拒否した場合は処罰するというのは不合理という判決が出されているため、拒否されたからといって強制はできません。
しかし、自発的に協力する義務があるとされているため、要望には可能な限り答えることが望ましいとはされています。
例えば、税務署から任意調査の日程が通知された時、その調査そのものを拒否することはできないのですが、日程の調整を行って調査を受け入れられるよう努力する義務はあります。
資料を開示するよう求められた時も、提示する必要があるのは求められた部分だけであり、全ての書類やデータを開示する必要はありません。
該当部分だけでいいので、他は隠したままで問題ありません。
質問検査権がどのようなものか、またどんな目的なのかを知っておき、適切に対応していけばいいのです。
求められたことに応えさえすれば、納税者の義務は果たすことができます。
質問検査権を拒否したとしても調査官が物理的に強制することができないのであれば、拒否できるのではないかと思う人もいるかもしれません。
しかし、正当な理由なく拒否した場合は、国税通則法の罰則規定に準拠して処分を受ける可能性があるのです。
法律では、正当な理由に拠らず資料の提示などを拒んだり、提出した帳簿の記載に虚偽があったりすると、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科されてしまうと定められています。
あくまでも正当な理由に拠らずという条件があるため、正当な理由があって資料や帳簿の開示や提出などを拒否する分には、罰則規定には該当しません。
例えば、腸さとは直接関係のないデータまで提出するよう求められた場合などは、拒否をする正当な理由と判断されます。
また、国税庁でもホームページ上で、この罰則があるからといって権限の行使を強制的に行うようなことは想定していない、とはっきり示しています。
罰則規定こそ定められてはいますが、かなり悪質でもない限りは早々適用されることもないでしょう。
税務調査においては、書類の提示や提出を求める際は税務署員がその理由や目的などを納税者に説明して、納得して承諾を得た上で行うこととされています。
質問検査権は万能ではないので、もしその権利を前面に押し出してすべての資料や帳簿を提出するよう求められたとしても、正当な理由として拒否することができるのです。
勘違いしがちな点として、質問検査権はあくまでも調べるための権利です。
決して、脱税などの犯罪を捜査するための捜査権ではないのです。
国税庁の使命である、納税者の自発的な納税義務の履行を実現するための権利なので、強制力はありません。
とはいえ、たとえ強制力がなく正当な理由があれば拒否できるものであり、たとえ拒否しても罰則を受ける可能性は低いとしても、質問検査権については応じる義務があります。
これに応じなければ、たとえ不正などがなくても税務調査を何回も受けることになるかもしれません。
また、ミスで申告しなかった場合でも不正としてみなされる可能性もあります。
やましいところがあったから調査に協力せず拒否をしたと言われれば、反論もし難いでしょう。
そうならないよう、原則としてきちんと応じるべきです。
まとめ
税務調査における質問調査権は、税務調査官となった税務署員が対象となる納税者に対して質問や検査を行うことが認められた権利であり、納税者はそれに応じる義務があります。
しかし、正当な理由がない資料の提出請求などは、拒否しても問題ありません。
また、拒否をした場合は罰則があるものの、それを理由に強制されることもありません。
ただし、原則としてはその義務を果たして、検査などには素直に応じるようにしましょう。