M&Aによる事業を多角化するメリットとデメリット

経営戦略

企業は様々な戦略を持ってM&Aを行うのですが、その中には買収によって事業を多角化するという戦略もあります。
買収をすることで既存事業とは異なる市場へと進出する戦略なのですが、その戦略のメリットとデメリットはどのようなものがあるのでしょうか?
M&Aによる事業の多角化の、メリット・デメリットを解説します。

M&Aでの事業の多角化のメリットとは?

M&Aでは、既存事業と同業種の企業を買収して事業を拡大するという戦略もありますが、既存事業とは異なる業種の企業を買収して事業を多角化するという戦略もあります。
事業の多角化には、どのようなメリットがあるのでしょうか?

まず、M&Aによって事業を多角化する場合は、既にその事業をビジネスとして成り立たせている企業を買収するため、一からその事業を始めるのと比べると多角化を速やかに進められるというメリットがあります。

買収する企業はビジネスとして進めるノウハウが既にあり、事業として成立しています。その企業のノウハウなどを得られるため多角化に対しての不透明感はなく、多角化に対して掲げる目標を達成しやすいのです。

また、ビジネスにおいて多角化はリスクが高い戦略でもあります。
一から多角化を始める場合、新規に市場へと参入するために多大なコストを支払う必要があるのですが、それに対して十分なリターンがあるという保証もありません。

しかし、M&Aによってその市場ですでにビジネスが成り立っている企業を買収する場合は、新規に事業を展開する場合よりもリスクは軽減されます。
買収する企業は、その市場で一定の地位を築いているからです。

独自に事業を展開するケースとは違い、M&Aで買収して事業を展開するのであれば、その企業が持つ市場価値を手に入れることができます。
また、その企業が持つ顧客もそのまま引き継ぐことができるのです。

M&Aは、買収する他社が持つノウハウや経営資源等も取り込むことができるというメリットがあります。
新規市場に参入した場合は右も左もわからないことが多いのですが、ノウハウを引き継ぐことで事業展開をスムーズに行えるようになります。

独自のノウハウというのは、通常であれば自社で蓄積していくだけのものなので、外部へと知られることはありません。
また、ノウハウを蓄積するには長い時間がかかるため、新規参入の企業が最も苦労する点でもあります。

しかし、M&Aで企業を買収することで、ノウハウを蓄積するのに必要な時間を短縮することができます。
そのまま活用するのではなく、自社の方針に合わせて変更するとしても、ある程度の形が決まっていればかなり楽になるでしょう。

企業独自の経営資源も、新規に市場へと参入する上で非常に役立ちます。
その市場での経験を持った人材も獲得できるため、展開方法なども手探りではなく確信をもって進めていくことができるのです。

シナジー効果の予測がしやすいというのも、M&Aによる多角化のメリットです。
事業の運営体制や技術基盤が既に整っている、事業を展開している企業をM&Aによって買収して自社に取り込む場合は、ゼロから事業を始めていく場合と比べるとシナジー効果が予測しやすくなるのです。

資材調達やマーケティング、商品開発、生産、物流、マネジメントなどの多面的なシナジー効果を分析・予測することは、事業を多角化していくという経営判断において非常に重要な意味があるのです。

M&Aでの事業の多角化のメリットとは?

M&Aによって事業を多角化することには大きなメリットがあるのですが、その反面デメリットとなることもあります。
具体的には、どのようなデメリットがあるのでしょうか?

M&Aで他社を買収するためには、買収する資金が必要となります。
その資金を調達する必要があるため、銀行からの融資も受けなくてはならないことも多いでしょう。

そして、銀行から融資を受けるためには、事業計画において買収が必要不可欠であることを説明しなくてはいけません。
そのためには、買収にかかる費用とその効果、シナジー効果なども詳しく解説する必要があるでしょう。

M&Aでは、スキームにもよるものの一般的には仲介会社やアドバイザリー会社を通じて買収を行うため、その報酬も必要となります。
また、デューデリジェンス費用やのれん代、株式の購入費用、税金なども考慮する必要があるのです。

また、買収を行う投資の判断を誤ってしまった場合は、買収資金が無駄になってしまうこともあります。
投資資金が大きければ大きいほど、投資判断を誤ることで資金繰りにも影響が出てしまう可能性が高くなります。

例え買収に成功して多角化したとしても、投資に見合うだけの利益や既存の事業とのシナジー効果が得られなければ、成功したとはいえないでしょう。
それだけの見込みがなければ、M&Aは行うべきではないともいえます。

また、買収の際はクロージングまで成功すれば問題ないと思われがちですが、実際にはその後でPMIという経営統合作業が残されています。
これまでは別の企業だった2社が、今後一緒のグループとして経営していくことになるため、様々なすり合わせが必要となるのです。

経営理念やビジョン、組織体制、各種の制度、業務システム、財務管理等様々な点が異なり、今まで通りとはいかないことも多々あるでしょう。
しかし、シナジー効果を最大限に発揮させるためには、経営統合が不可欠なのです。

PMIが上手くいかなければ、業務の混乱や従業員のモチベーションの低下、取引先との関係の悪化、優秀な人材の離職など、多くの問題が生じる可能性があります。
そういった問題が積み重なると、M&Aによって事業を多角化したメリットが失われてしまうかもしれません。

また、業務が混乱してしまうと元々の事業、いうなれば本業にも影響が出てしまいます。
M&Aによる多角化では、経営の統合が困難なケースも少なくありません。
もしも統合が上手くいかないと、会社全体の経営効率も低下してしまう恐れがあるのです。

まとめ

M&Aによって事業を多角化すると、新規参入の市場でもノウハウや顧客を得ることができ、買収した企業の経営資源も得られるなど、様々なメリットがあります。
全くノウハウがない状態で新規参入した場合は失敗するリスクも高いのですが、そのリスクも軽減されるのです。
しかし、M&Aには多額の資金が必要で、経営統合が上手く進まないせいで業務にも支障が出るケースなどもあるため、慎重に検討しましょう。