近大マグロの完全養殖が岐路に立っている理由

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近大マグロは2002年に近畿大学水産研究所が完全養殖に成功したクロマグロのことで、技術革新や産業化に大きな期待を持たれたのです。
しかし、近年では近大マグロの完全養殖が岐路に立たされていて今後の見通しが暗くなっているといわれていますが、いったい何があったのでしょうか?
近大マグロの今後について、解説します。

近大マグロの完全養殖が岐路に立たされている?

近大マグロは養殖施設で人工ふ化させた完全養殖マグロであり、減少しつつあるマグロ資源を守るために期待される技術です。
2002年に完全養殖に成功し、2008年には配合飼料の開発にも成功して産業化が可能となったのですが、現在暗雲が立ち込めています。

なぜ先行きが暗くなっているのかというと、まず需要が伸び悩んでいて期待したほど完全養殖の稚魚を購入したいという養殖業者や水産業者が拡大していないのです。
稚魚のことを人工種苗ともいうのですが、引き合いは2017年以降徐々に減少しつつあります。

また、天然の幼魚を捕獲して養殖する天然養殖と比べてコスト面で負けており、今後天然資源が回復するとますますコストの差が広がるといわれているのです。
飼料コストが高騰していることも懸念されていて、魚の体重を増やすために大量の飼料が必要となり成長効率が非常に悪いことも収益性を圧迫しています。

人工種苗から育てたクロマグロの生残率の悪さや形態異常なども報告されていて、品質の安定性に問題があるともいわれているのです。

原因としては、成長途中で網にぶつかることで変形して形態異常の原因になることや、幼魚が低水温に弱いため死亡しやすい点などがあります。
また、沖縄などの南の海域にあるインフラ養殖場から本州などの消費地まで輸送する手段や輸送コストの確保にも難点があり、輸送船の確保が課題となっているのです。

競合技術も登場しており、クロマグロ以外の飼育効率がより良い養殖マグロに似た魚種やスマなどが注目を浴びています。
愛媛大学でも、マグロの近縁種であるスマの養殖で出荷までの期間を大幅に短縮しているのです。

水産大手も完全養殖マグロ事業からの撤退や縮小があり、マルハニチロも2025年に完全養殖クロマグロの生産量を前年比8割減少する方針を出しています。
近大マグロの完全養殖という技術自体は非常に有用なものでしたが、ビジネスとして拡張していくにはまだ多くの課題が残されているといえるのでしょう。

今後近大マグロはどうなるのか

近大マグロの今後が危ぶまれているのですが、もちろん開発した近畿大学や推進している関連ベンチャーなどは傍観しているわけではありません。
様々な対策を講じているのですが、具体的な対策や努力の限界、まだ残る課題などに何があるのでしょうか?

まず、近畿大学が取り組んでいるのは生残率や形態異常の発生を改善することで、早期から対策を始めています。
変形リスクが高いとみられる稚魚はなるべく早い段階で選別して排除しており、生残率を高めるためにエサの設計を見直すなどの手法も取っているのです。

また、技術継続や育種研究にも取り組んでおり、より強いマグロを育てるために異なる系統や体制の高い系統を作り、将来的な選抜育種技術も磨いています。
消費者に向けてブランディングの強化にも取り組んでおり、近大マグロというブランドの価値を高めようとしているのです。

個体情報をQRコードで確認することを可能として、大学直営レストランでの提供やプロモーション展開などの取組も行っています。

また、幼魚の採取や養殖を沖縄や南の海域で分散することで低水温体制の課題を多少なりとも回避して、輸送経路を確保するための検討も行っているのです。
しかし、様々な対策を行っていても改善や確率を高めるためのものに留まってしまうため、根本的な資料や輸送、成長効率などのコスト構造を大きく変えることはできません。

既存の完全養殖モデルが大規模なスケールを持つ産業レベルに達するには、まだ技術成熟性やコスト競争力での差が大きいのです。
競合魚種や代替技術が急速に発展しつつあることで、クロマグロ完全養殖の優位性は相対的に引き下げられているといえます。

今後の市場や消費者の価値観が安さと資源配慮のどちらを重視するようになるかで、完全養殖魚の価値を正当化するのが難しくなってしまうかもしれないのです。
そもそも、完全養殖クロマグロの生産量は養殖マグロ全体のごく一部に留まっているため、今後の発展も厳しくなってしまいます。

現在、近大マグロがピンチだといわれている要因の多くは商業的拡張性とコスト競争力に基づいたものでしょう。
しかし、将来に向けた技術的な魅力やビジョンとしてみると、近大マグロの意義はまだ色あせているとはいえません。

今後の完全養殖クロマグロは大量生産による主流の魚種にはならないかもしれませんが、高付加価値の魚種として存続していく可能性はあるでしょう。
一般的なマグロ市場を席捲しようとするのではなく、ブランド力やストーリーを重視した魚種、あるいはサステナブル志向の特定ニーズを狙うモデルになるかもしれません。

技術のブレイクスルーによるコスト革命が起こり、資料効率が飛躍的に改善されるような代替飼料や遺伝子育種、飼育環境制御などが実現して注目される可能性もあるでしょう。
クロマグロの完全養殖だけにこだわるのではなく魚種の転換やハイブリッド戦略としてスマや他の魚種との併用をするようになるかもしれません。

あるいは、クロマグロの完全養殖と天然稚魚との併用モデルのような実用的な戦略を選択する可能性もあるでしょう。

また、国や自治体の水産振興策や資源保護政策、サステナブル漁業支援策を取り込んで産業連携や政策支援強化につながるかもしれません。
不採算部分に対して補助を受けながら技術の成熟に取り組むことができれば、現時点での不安は解消され将来に向けて取り組むことができるでしょう。

ただし最悪の場合は、多くの企業が完全養殖クロマグロから撤退してしまい、近畿大学では研究開発部門に注力して研究を中心としたフェーズに戻ってしまうかもしれません。

まとめ

クロマグロの完全養殖に成功した近大マグロは、発表された当初から注目されて多くの企業が参入したものの、現在はコストや技術面での課題が多く撤退する企業もいるのです。
多くの課題に対しての対策も考案されており実際に取り組んでいる面もあるのですが、いまだに十分とはいえず今後どうなっていくのかは不透明なままとなっています。
もしかしたら産業からは撤退して、再び研究フェーズに戻ることになる可能性もあるでしょう。