電子契約を始める前に知っておくべき法的リスク

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近年、インターネット上でやり取りする企業が増えていることで、電子契約を導入する企業も増えています。
しかし、電子契約を始める前に法的リスクを知っておかなければ、後から後悔することになるかもしれません。
電子契約を始める前に知っておくべきリスクについて、解説します。

電子契約に関する法律

従来であれば、契約を結ぶときはどちらかの会社に訪れ、書面を交わします。
しかし、近年では会議や商談もネットを利用して直接会わずに、オンライン会議などを行うことが増えているため、契約も契約書ではなくネット上で締結できることが望まれるようになりました。

直接会わずに契約するために必要なのが、電子契約です。
電子契約は、インターネット環境さえあれば契約を結ぶことができるため、時間やコストを削減できるのです。

しかし、電子契約にはいくつかの法的リスクがあります。
まずは、電子契約を可能としている法律について、解説します。
電子契約に関する法律には、どのようなものがあるのでしょうか?

有効性を支えている法律

まず、電子契約を有効にする法律を解説します。
契約のルールを定めた民法の中で、契約方式の自由ということが明記されていて、書面以外の契約でも有効だということを示しています。

また、電子署名を法律的に有効としているのが、電子署名法です。
第2条で電子署名の定義をしていて、第3条では電子化された契約書の真正な成立が推定されることを規定しています。

政府も、クラウドサインのようなクラウド型電子署名サービスが電子署名法に定められた要件を満たすことができるということを、文書で示しています。
法律が定めるように、電子署名によって電子契約が成り立つのです。

電子契約の契約書PDFファイルが証拠となりうることを、民事訴訟法で定めています。
第247条で定められている自由心証主義で、争いがないと定められています。
厳密にいうと、証拠となるのは電磁的記録ではなく、記録している媒体が情報を示す準文書として扱われることになるのです。

利用者を保護する法律

電子契約を利用する人を保護する法律として、まず電子契約法があります。
電子商取引の消費者の救済措置を定めた法律であり、操作ミスで意図せず注文した商品やサービスの契約は、錯誤無効制度の特例で救済されることがある、と定められています。

消費者を保護するために、特定の契約類型は契約内容を書面にして消費者に交付することを義務付けた、特定商取引法もあります。
今までは必ず書面を交付することが義務となっていたのですが、電子契約においては交付するべき契約類型が限られることとなったのです。

労働基準法でも、利用者を保護することが定められています。
労働者への労働条件通知は、希望によって書面と電気通信の送信のどちらにするかを選ぶことができるようになったのです。

また、下請法では下請取引において、発注者が下請事業者に書面を交付する義務があることを定めています。
書面交付義務は、下請業者の承諾があれば電磁的方法に変えることが可能です。

建設業法では、工事請負契約の締結において書面を交付することが原則としていますが、同意を得た場合は電子契約で締結することも認めています。
具体的な技術基準は、政令で定められています。

不動産関連の電子契約は、借地借家法で定められています。
書面を作成・交付することと定められていて、賃貸借契約は公正証書などの書面にするべきとされていたのですが、法改正で電子契約も認められるようになったのです。

宅建業法では、不動産取引における重要事項説明書や、宅地建物の売買、交換、賃貸借契約などを締結した際の交付書面は、宅地建物取引士の押印が不要とされ、書類の多くは利用者が承諾すれば電磁的記録で交付することも認められるようになりました。

事業者を規律する法律

電子署名法では、本人の身元を確認する認証局というサービスが電子契約関連サービスに含まれている中で、認証局による本人認証サービスを規律しています。
特定認証業務を行うには、法務大臣の認定が必要です。

めったに活用されない電子契約関連サービスに、企業の代表者が従業員に電子署名権限を委任したことを証明する、電子委任状が発行されることがあります。
電子委任状の取扱業務は、電子委任状法に規律されています。

税務に関する法律

電子契約の税務は、まず電子帳簿保存法が関係しています。
電子取引のデータ保存に関する業務についての法律で、所得税や法人税を企業が納税する場合に電磁的記録が必要になります。

契約書に貼付する印紙は、印紙税法によって定められています。
通常は、紙の書面に印紙を貼付するのですが、電子データの場合は添付できないため、電子契約に印紙税は課税されないことになっています。

電子契約の法的リスク

電子契約には、非常に多くの法律が関わっています。
法律に違反した場合は契約が無効となってしまうこともあるため、紙の契約書がただ電磁的記録に変わっただけとは思わず、違いを把握しておきましょう。

まず、電子契約の場合でも、書類交付が必要になる契約はあります。
ただし、取引先に承諾を得られた場合は、電磁的記録で代用できるのです。
承諾が必要な契約と、必要ない書類の違いを、きちんと把握しておきましょう。

また、電子契約には電子署名が必要となりますが、電子署名は事前に用意しておかなければ利用できないので、きちんと認証を受けておきましょう。
ただし、自分で認証受けずに事業者が代理で電子署名を付与する、立会人型という方法もあります。

事業用定期借地契約や任意後見契約書、企業担保権の設定または変更を目的とする契約などは、電子契約が認められていません。
上記のような契約は、まだ書面での契約が必要となるのです。

ただし、2020年以降はデジタル改革関連法の改正が進められているため、今後利用できるようになる可能性は高いでしょう。
法律で認められているのか、今後認められることはあるのかをしっかりとチェックしたうえで、電子契約を結びましょう。

まとめ

近年、導入する企業が増えている電子契約は、民法や電子署名法、民事訴訟法、電子契約法、特定商取引法、労働基準法など、様々な法律が関連しています。
中には、あまり聞いたことがない法律も含まれているでしょう。
多くの法律があるということは、法律に反することも多くなる可能性が高いということです。
法的リスクに注意して、電子契約を活用していきましょう。