近年利用者が増えてきて問題となっている薬物の1つが、「ゾンビたばこ」と呼ばれるものです。
ゾンビたばこは沖縄から広まってきたといわれているのですが、今までの薬物とはどのような点が違い、どのような形で使用されているのでしょうか?
ゾンビたばこについて、解説します。
ゾンビたばことは?
近年、ゾンビたばこというものがニュースとなることが増えており、聞いたことがある人も多いでしょう。
ゾンビたばことは物騒なネーミングに思えるかもしれませんが、実際にはどのような薬物なのか解説します。
ゾンビたばこは、日本では未承認の「エトミデート」という違法薬物のことですが、実は一部の国では医薬品として承認されている薬物です。
麻酔や鎮静の効果があるのですが、適正な方法で使用しなければ幻覚が見えたり全身がけいれんしたりする副作用があり、死亡することもあります。
実際に香港や台湾などアジアの多くで乱用されており、社会問題となっていて規制当局によって「ゾンビ」と名付けられているのです。
日本でも、沖縄の若者の間で「笑気麻酔」と呼ばれて広まっていることが確認されており、国では2025年5月にエトミデートを指定薬物に追加しました。
指定薬物に入った薬物は、医療目的以外では製造や所持を禁じられることとなるため、エトミデートも気軽に使用できなくなっているのです。
ゾンビたばこと呼ばれるようになったのは、エトミデートを電子たばこのリキッドとして吸入していたからです。
電子たばこにはいくつかの種類があるのですが、基本的に液体(リキッド)に味や香りをつけて電気の熱によって気化させ、蒸気を吸引します。
リキッドにはたばこ成分が含まれていないため、日本ではたばこの一種ではなく雑貨として扱われているのです。
未成年者の購入や所持、使用には制限がないのですが、小売店が独自に年齢制限を設けているケースはあります。
リキッドはそれぞれのデバイスに合わせて専用のものが販売されていたり、あるいは使い切りで販売されていたりするのです。
しかし、自分で調合したリキッドを使用することも可能なので、中にエトミデートを混ぜて使用する人が現れたのです。
エトミデートが混ざっていても周囲の人には気づかれず、注射痕などが残ることもないため若者も気軽に始めるようになりました。
エトミデート自体も違法薬物ですが、気軽に始められる分入り口となってさらに副作用が重い薬物などを始めるきっかけとなる恐れもあるのです。
また、電子たばこ自体にも健康リスクがあり、ニコチンが入っている依存性が認められるようなリキッドも個人使用目的で輸入することは認められています。
電子たばこによって喫煙のハードルが下がってしまえば、未成年者の喫煙を助長するリスクにもつながってしまうため、未成年者への規制は必要となるでしょう。
エトミデートの問題点
ゾンビたばこで問題となるのがエトミデートという薬品ですが、日本では未承認でも海外では認められている国があります。
認可している国がある以上は危険が少ないように思えますが、エトミデートは何が問題なのでしょうか?
エトミデートは脳の中枢神経に働きかけて神経の働きを強く抑える鎮静薬で、使用後には混乱やせん妄に伴って、幻覚のような症状が現れることがあります。
乱用してしまうと精神錯乱を起こして意識がぼんやりしたり、意識を失ってしまったりすることがあるのです。
さらに重篤になると体がけいれんしたり震えたりしはじめ、自分の体をコントロールできなくなって自傷行為に走り、自分を傷つけてしまうようになります。
けいれんしたり自傷行為を繰り返したりして意識がなくなる様子がゾンビのような症状といわれることから、ゾンビたばこと呼ばれているのです。
また、薬物の働きには体の脇腹にある副腎という臓器の皮質に悪い影響を与えてしまう働きもあります。
特に、ストレスに対処するホルモンであるコルチゾールなど、体のバランスを保つために重要なステロイドホルモンの生成を抑える働きがあるのです。
エトミデートの働きによって、副腎の機能が十分に働かなくなる副腎機能障害を引き起こしたという事例も報告されています。
エトミデートには、ステロイド11β-ヒドロキシラーゼという酵素の働きを妨げる作用があることもわかっています。
特に女性が使用した場合はカリウムが異常に少なくなる低カリウム血症や、男性ホルモンが増えすぎてしまう高アンドロゲン血症などを発症することがあるのです。
他にもホルモンバランスが崩れることで、さまざまな症状が現れる危険性が指摘されています。
エトミデートは2024年に台湾でも社会問題となった薬物で、密輸なども横行していたのです。
日本でも密輸して逮捕される人が次々に現れ、使用したことで痙攣が止まらなくなった人も含めて連日のように報道されています。
既に流通している電子タバコのデバイスを使用して気軽に摂取できる薬物となっているため、副作用などを考えず気軽に始める人は若者を中心に後を絶たないでしょう。
しかし、密輸組織の摘発はできても個人輸入まで完全に止めるのは難しいため、撲滅するための難易度はかなり高いかもしれません。
今後、さらに警戒を強化して水際で薬物の密輸を食い止めていかなければ、なかなか完全に撲滅することはできないでしょう。
薬物使用の危険性などの啓蒙活動も進めていき、副作用による被害者を出さないための活動が求められます。
日常の中に静かに侵入してくるゾンビたばこという薬物は、食い止めなければ電子たばこの規制にもつながる可能性があるでしょう。
まとめ
日本では未承認の薬物であるエトミデートを電子たばこのリキッドに混合して吸引するというゾンビたばこは、使用者に幻覚や意識喪失、全身けいれんなどの副作用を与えます。
非常に危険性が高く、アジア各国で社会問題となっているのですが、日本でも近年使用者や密輸者が増えており、大きな問題となっているのです。
使用者を食い止めるためにも危険性の周知や取り締まりの強化、密輸を水際で食い止める活動などが必要でしょう。

