なぜ薬不足が起こっているのか⁇

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日本の医療現場で現在大きな問題となっているのが薬不足で、全体の2割にあたる約3800品目もの薬が不足しているのです。
特にジェネリック医薬品に関しては、一部の効果がある薬品が長期的に供給不足や特定の処方薬の長期的か欠品が問題となっているのですが、なぜ薬不足に陥っているのでしょうか?
主な原因や必要となる対策について、解説します。

薬不足の原因と現状

日本国内では数年前から深刻な薬不足に陥っており、医療現場でもかなり苦労しているのですが、何が原因なのでしょうか?

薬不足となっている最大の要因として挙げられるのが製造工程上のトラブルで、2020年に別の薬品の成分が混入した事故がきっかけとなっています。
問題となったのは爪白癬の治療薬であるイトラコナゾールで、服用した人の中にめまいやふらつき、意識障害の副作用が複数報告されたのです。

原因は、製造過程で睡眠導入剤の成分が大量に混入していたことが原因で、製薬会社を後に調査したところ、直近20年ほどの製品のうち約70%は法令に違反していました。

医薬品の製造には、GMP(Good Manufacturing Practice)という厚生労働省令で定められた法令があるのです。
法令に違反していたとしても重大な副作用や体への害などがあるとは限りませんが、安全性と品質を高めるために法令が定められています。

GMPに基づく基準に厳密に従って製造されている必要があり、基準に反していると医薬品を製造したり販売したりすることができないのです。
事件が発覚したことで厚生労働省や都道府県による立ち入り検査などが強化され、一部のメーカーでは品質管理基準を満たさない事例が発覚しました。

品質管理基準を満たさない製品については生産や出荷の際に制限や停止などの処置があるため、医薬品が不足しているのです。
特に、ジェネリック医薬品は多くの企業が製造しているのですが、品質に問題があるケースも多いため医薬品の供給に関しても影響が出ています。

日本の医薬品のうち、日本で製造されているのは金額ベースで60~70%ほどで、30~40%は輸入しているのです。
主要な輸入元はアメリカやヨーロッパ各国で、特に高価な抗がん剤や免疫案連疾患治療薬のバイオ医薬品や特許医薬品の多くは、海外から輸入しています。

一方、日本で製造されている医薬品も効果を現す成分の原薬や原料、中間体などは海外から輸入しているものが多いのです。

原材料の調達から生産、加工、流通、販売に至るまでの一連の流れをサプライチェーンといいます。
特に、ジェネリック医薬品の原薬は半分以上海外から輸入しており、サプライチェーンに海外を含むものを含めると7割近くが占めており特に中国やインドに依存するのです。

近年は世界的にサプライチェーンが混乱しており一部の国で輸出している特定の成分の生産制限もされたことで、原材料を必要量確保するのが難しくなっています。

また、為替レートの変動や輸送費の増加によってコスト負担が増えたため製薬企業が供給を減らし、医薬品の流通が滞ることもあるのです。
日本では、医薬品の価格を国が管理する「薬価制度」が存在しており、薬価が抑えられる代わりに製薬企業にとって十分な利益を確保することが難しくなります。

同じ薬でも薬価が下がれば製薬会社の利益の減少につながるため製造する医薬品を少なくし、製造コストが高ければ医薬品も流通しなくなるのです。
特に安価な薬は生産性が低く、需要が限定的であれば供給が不安定になるなど、様々な問題が生じてしまいます。

医療現場では新たな治療法の普及や高齢化によって一部の薬品の需要が増え、供給が追い付かずに品薄となってしまうことも増えているのです。
さらに特定の薬剤の需要が一気に増えるようなケースもあるため、さらに供給が不足してしまうこともあり得ます。

薬の供給は短期間でいきなり増やすことはできないため、一時的に不足することは避けられないでしょう。

影響と必要な対策

医薬品不足が医療に及ぼす影響は深刻で、特定の薬が手に入らない場合は代わりの薬を使用することになりますが、効果の低下や副作用などが懸念されます。
また、医薬品が不足してしまえば医師や薬剤師が対応しなくてはならないため、患者の治療や薬の提供などの本来の業務が滞ってしまうかもしれないのです。

特に、薬剤師はできるだけ処方箋通りに調薬する必要があるのですが、どうしても必要な薬がないということもあるかもしれません。
必要な薬が不足してしまえば、業者や近隣の薬局に問い合わせてみて在庫を確認し、見つからなければ代替薬に変更することも提案しなくてはならないでしょう。

従来であれば必要なかった業務が増えてしまい、医薬品が変更された場合は服薬指導の内容も変わってしまいます。
医薬品の不足に伴って治療を進めていくのも困難となり、病気の進行が早まるリスクもあるのです。

日本政府では、ジェネリック医薬品について医薬品が安定して供給される制度の実現を目指し、産業構造についても議論しています。
原材料を調達するルートについてできるだけ広げていき、国の垣根を超えて国際的に協力することも必要となるでしょう。

医薬品を適正に使用できるような対策も進め、製薬企業でも品質には改めて注意して、アプライチェーンも従来通りではなく多様化して考える必要があるでしょう。
医薬品不足は、製造工程や市場構造、必要とされる数に対して生産量が追い付かないなど、多くの理由が複合して原因となっています。

政府と製薬業界、医療現場など関わりがあるところでは連携を強めていき、長期的な視点で取り組まなければ問題の解決は難しいでしょう。
薬不足は医療を進めていくうえで障害となり、病気となった人を回復させるためにはどうしても必要となるため、なるべく早急な対策が必要とされます。

まとめ

薬不足になっている原因には、製造工程上で不要な成分が混入したことや海外からの輸入に頼った医薬品のサプライチェーンの脆弱性などがあるのです。
また、為替レートの変動や輸送費の高騰などでコストが増えても日本では薬の価格があらかじめ定められているため、コスト増は製薬会社の利益減につながります。
医薬品の不足によって医療現場が混乱したり、命に関わるような問題が起こったりしないよう対策を講じる必要があるのです。