日本の財政はギリシャよりも悪い、の嘘

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石破総理が国会で日本の財政状況について、ギリシャよりも悪いと発言したことが大きな波紋を呼びました。
ギリシャは2009年の政権交代で隠されていた財政赤字が明らかとなり、ヨーロッパ諸国の国債やユーロの下落を招くこととなったのです。
日本は本当にギリシャよりも財政が悪いのか、解説します。

石破総理の発言内容の問題

石破総理は5月19日の参院予算委員会において、日本の財政状況がギリシャよりも悪いと発言したことで、物議を醸すこととなったのです。
発言の影響で金融市場では大混乱が生じ、5月20日の20年物国債入札では買い手が大幅に少なくなる事態となりました。

また、国債の流通市場でも価格は軒並み低下しており、安定した購入者となっていた機関投資家は大きな損害が生じることとなったのです。
長期国債の価格が低下すると金利が上昇してしまい、住宅ローン金利にも関わってくるため国民生活にも影響が及ぶこととなってしまいます。

石破総理の発言が正しいものであれば仕方がないとも言えますが、実際には誤った発言だったことが、事態をさらに複雑なものとしているのです。

日本の政府債務を先進諸国の中で見ると突出しているというのは確かであり、日本の政府総債務残高は2024年末の時点での対GDP比で200%を超えています。
日本を除くG7諸国の中で最も悪いのはイタリアの135.29%なので、日本の政府債務は特に悪いのだというのですが、視点を変えると間違いだということが分かるでしょう。

日本は、諸外国の政府と比べて政府保有資産が非常に多いため、総債務で比較するのではなく債務超過分を示す純債務で考えた方がいいという見方もあります。
政府純債務の対GDP比で見た場合、イタリアは125.09%ですが、日本は134.61%と大きな違いが無くなるのです。

確かに、G7諸国と比較すると日本の政府財政はいい状況とは言えないのですが、突出して悪いという印象はありません。
純債務で見ても日本は最悪だと感じるかもしれませんが、総資産の見方によって対GDP比は大きく変わってくるのです。

日本の総資産は財務省が公表している額よりもさらに大きく、例えば財務省の公表する有形固定資産の残高は280兆円ですが、IMFデータでは983兆円になります。
差額の700兆円は日本のGDPを超える額なので、評価の違いによって政府純債務残高の対GFP比は大幅に改善されるのです。

なぜ大きな差が生じるのかというと、IMFは世界各国で資産を平等に評価して比較するからだと思われます。
簿価ではなく、時価で有形固定資産の資産額を出すように、各国の財政当局に伝えているのでしょう。

しかし、有形固定資産の中には道路になっているものもあるため、いつでも売却できるような資産というわけではありません。
売買の対象にすることができないため、現在の売買価格で評価しても意味がないと思われがちですが、きちんと評価することには十分な意味があるのです。

日本の現在の国力や経済力などを基準にして日本国債が発行されるのであれば、時価による評価を基準として考えるべきだと思います。

資産超過となった試算の内容

日本の資産について計算したとき、実は純債務に通るどころか48兆円の純資産があるという計算になることもあるようです。

計算の際、有形固定資産を含めて政府純債務残高の対GDP比を計算すると、134.61%になります。
ところが、資産項目から有形固定資産を除いて純金融負債残高の対GDP比を計算すると86.4%となり、数字上改善されてしまうのです。

総資産が資産全体を示しているのに対して、総金融資産は金融資産だけに限られるため額が小さくなるのは当然といえます。
なら、本来は政府純債務残高よりも純金融負債残高の方が大きくなるはずですが、実際には異なっているのです。

また、計算のもとになっているデータには社会保障基金の残高が含まれていないため、含めて考えると結果も変化します。
社会保障基金というのは公的年金積立金のことで、運用されることで利益が生じているのです。

年金基金の資金は、将来政府が国民に対して年金として給付するものなので、政府の資産として算入するのには抵抗があるかもしれません。
確かに、国民の資産を代理で運用しているだけとも言えますが、計算に含めないのが正しいとは言い切れないでしょう。

年金基金は日本だけではなく、どの国でも同じような性質となっているのですが、他国では年金基金の資金を計算から外さずに時価評価で計算しています。

国際比較を行うのであれば、計算に含める要素も等々にしなければ不公平となるため、年金基金についても時価評価で組み入れる必要があるでしょう。
社会保障基金を時価評価するなどして日銀資金循環表に沿った形に修正すると、日本政府は純資産を持っていることになります。

日本資産の持つ純資産の規模は48兆円のプラスどころか、350兆円くらいのプラスにまで拡大することになるのです。
確かに資産のほとんどは完全に政府の黒字によるものではないことには注意しなくてはいけませんが、統一的な国際比較の中では日本の政府財政が極めて健全であるといえます。

また、中央銀行である日本銀行まで連結対象に含めると、日本政府のプラスはさらに大きくなるということもよく指摘される点です。
なぜかというと、日銀は日本国債を559兆円規模に達するほど保有しているため、計算に含めると資産に大きく影響を与えます。

しかし、日本政府の子会社とみなして連結対象として考えることには、異論もあるでしょう。
日銀と日本政府とでは目的が違い、進む方向が常に一致しているというわけではないため、子会社とは言い切れません。

日銀が日本政府と協議しながら金融政策を進めていくとしても、親会社としての日本政府が子会社である日銀の動きを完全にコントロールできるわけではないのです。

しかし、日銀が保有している国債の金利は当然日銀が得た利益として扱われ、得られた利益は最終的には国庫に上納されることになっています。
政府は日銀に国債の利払い費用を支払うことにはなりますが、事実上費用として考える必要がないというのは確かではあるのです。

結果として、日銀保有国債について日本政府の債務として考える必要性がごくわずかであるというのも、事実といえます。
様々な要素から、日本の財政状況が世間で思われているほど悪いものではなく、むしろ実態に即して考えれば石破総理の発言が間違っていることが明らかでしょう。

まとめ

日本の財政状況について、石破首相はかつて2009年に財政破綻したギリシャよりも悪いという発言をしたのですが、実際に計算してみると悪いとは言い切ることができません。
政府総債務残高を対GDP比で見た場合は、G7諸国の中でもかなり悪いのですが、日本政府の保有する資産も計算に含めるとかなり改善されます。
むしろ、資産の評価方法次第では純債務どころか純資産があるという計算結果になることもあるほど、結果が異なるのです。