医療における法や倫理の問題を考える

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医療現場に携わる人間にとって、法や倫理は常に付いてまわる問題です。
医療は法に基づき、倫理にもとる行いをしないことを前提として行うのが当然です。
しかし、時折問題が起こるのも否定できません。
医療において、法や倫理の問題はどう対応するべきでしょうか?

医療における倫理

医療においては、生命倫理4原則というものが定められています。
医療従事者はこれを守ることが原則となりますが、果たしてどのような内容なのでしょうか?

1つ目は、人に対する敬意(respect for persons)というものです。
これは、自己決定が可能な人については、本人の自由意思によって決定したことを尊重するというものです。
例えば、自由意思で治療や入院を拒否したとしても、それを尊重しなければならないのです。

しかし、子どもや知的障害者、精神障害者については自己決定が困難であると判断されます。
その場合は、人としての倫理に基づいた保護を与えるものとしています。

また、2003年に個人情報保護法が成立したことで、個人情報の保護も人に対する敬意の1つと考えられるようになりました。
患者について職務上知り得た情報を、他人に話すことは禁止されています。

2つめは無危害(nonmaleficence)というもので、患者や研究対象者に対して危害を加えないこととなっています。
故意に不必要な危害を加えないことはもちろんですが、たとえ過失であっても危害を加えないことと定められています。

過失であっても危害を与えてはならないということは、それだけ注意して治療に当たらなくてはならない、ということです。
また、不測の事態などが起こらないように周囲にも気を配る必要があるでしょう。

3つ目は、利益(beneficence)です。
善行や与益、仁恵ともいい、患者や研究対象者にとって最善の利益となるように図ることを言います。

そのためには、医療・医学水準に適した医療や医学研究を実施しなくてはいけません。
多くの方法がある中から、その症状等に合わせて最善のものを選ぶ必要があるのです。
そのためには、常に学び続ける必要があります。

4つ目は、正義(justice)です。
これは、人に対して公正な処遇をするというものです。
これには、いくつかの正義が定められています。

まず、相対的正義というものです。
これは、同等なものを同等に扱うと定めたものです。
自身で基準を定めて、扱いを変えるようなことはしてはいけない、ということです。

配分的正義というものがあり、利益や負担を公平に分配することを定めています。
例えば、医療資源や臓器の配分については先着順や重症度順、提供者との年齢の対応などから判断して配分しなくてはいけません。

その他に補償的正義というものもあり、これは研究に参加したことで被害を受けた人には、正当な補償をしなくてはならないと定めたものです。
これらが、医療における倫理の基礎となるものです。

医療における法と健康被害

医療において健康被害が生じた場合は、法的責任を取るよう定められています。
法的責任には、民事責任と刑事責任、行政上の制裁の3つが定められています。
それぞれ、どのような内容になるのかを解説します。

民事責任は、基本的に損害賠償責任です。
医療を受けた後で健康被害が生じた場合は、まず医療との因果関係があるかを確認します。
この時、因果関係が認められなければ補償や賠償の対象とはなりません。

因果関係が認められると、今度は医療者側に過失があったかどうかを調べます。
過失があったと認められた場合は、不法行為責任や債務不履行(契約違反)責任として損害賠償責任が生じます。
過失がなかった場合は損失補償責任となりますが、医療では一部を除いて課されることはありません。

刑事責任を問われるのは、業務上過失致死傷罪や虚偽公文書作成罪、証拠隠滅罪などに該当する場合です。
行政上の責任は医師免許の取り消しや医業の停止などがありますが、その内容は基本的に刑事処分の量刑や刑の執行が猶予されたかどうかを参考にして決定されます。

医療においては、医療を行う前にインフォームド・コンセントを行わなくてはいけません。
インフォームド・コンセントには、いくつかの成立要素が定められています。

まず、患者に同意能力がなければいけません。
患者に同意能力がない場合は、代諾者の同意が必要です。
また、医療従事者は病状や医療行為の内容、その目的、危険性や放置した場合の結果などを適切に説明することも定められています。

そして、患者がその説明を理解したことも確認しなくてはいけません。
患者は、医療従事者から説明を受けた上で、意思決定において矯正などをされない任意の意識的な意思決定を持って同意することで、インフォームド・コンセントが成立します。

未成年に対するインフォームド・コンセントでは、かつて未成年者はすべて同意能力がないものとみなされていたのですが、現在では党外の医療行為についての理解力・判断力を十分に備えていれば同意能力が認められています。

その場合、未成年の患者本人の同意があれば医療行為を行うことができる、とされています。
ただ、現実的には親権者の同意も求められることが多いため、緊急時に限られるでしょう。

手術については、15~18歳ほどから同意能力が認められます。
献血は、献血センターなどと同じく16歳からです。
臓器移植については、生体肝の提供が原則として20歳からとなり、死体肝の提供は15歳からとなっています。

かつて、10歳の子どもがダンプカーに接触したことで骨折し、輸血が必要な事態となったのですが、両親が宗教上の理由からそれを拒否し、出血多量で死亡したという事件がありました。

これについて、速やかに輸血していれば救命できたと医師は述べていますが、観察医には必ずしもそうとは言えない、と判断されました。
ダンプカーの運転手は業務上過失致死罪容疑で送検され罰金15万円を課されたのですが、輸血を拒否した両親は保護責任者遺棄罪などの刑事罰の追及をしないことが決定されました。

輸血については他にも裁判となったこともあり、輸血を拒否する患者に輸血した医療従事者は不法行為責任を負うということで結審しています。
2008年には、宗教的輸血拒否に関するガイドラインも定められました。

また、終末期医療についても度々問題が生じています。
積極的安楽死が許容される要件や治療中止が許容される要件などが定められており、近年ではガイドラインや勧告なども出されています。
そういった決まりが多い中で、医療従事者は違反しないよう十分に注意して医療を行う必要があるでしょう。

まとめ

医療における法や倫理には、以前から多くの問題が起こっています。
その問題が起こるたび、再発を防止するためにガイドラインが定められ法が改正されていくことになります。
しかし、人の命を預かる医療現場では、時として命を優先して法や倫理に拘ることができない状況もあるでしょう。
そういった時にどちらを優先するべきか、医療従事者に問われることになるでしょう。