個人事業主にとって残酷な消費税になるのか?

その他

2023年に、インボイス制度が始まります。
これは多くの企業に影響する制度ですが、個人事業主にとっても無関係ではありません。
むしろ、個人事業主にとって残酷な消費税制度になってしまう可能性もあるのです。
それは、一体何故でしょうか?
その理由について、解説します。

個人事業主に起こる変化

インボイス制度というのは、請求書に関わるものです。
適格請求書というものを定め、事業者は登録をして登録番号を発行しなければ適格請求書を発行することができないというのが、この制度の概要です。

適格請求書とそれ以外の請求書とでは、仕入税額控除に違いが生じます。
これまでは登録制度がなかったので、どこが発行した請求書でも仕入税額控除を受けることができました。
しかし、インボイス制度が開始すると、適格請求書でなければ控除されなくなるのです。

これは、現行の制度では消費税の納税が免除されている事業者がいたため、消費税はその事業者の益税となってしまっていた、というのが理由としてあります。
その状況を是正するために、新たな制度が導入されることになったのです。

また、軽減税率に対する対応という面もあります。
現在の消費税は、通常の10%と軽減税率の8%とがあります。
これには、今後税率を上げやすくするという目的もあります。

しかし、現在の請求書の書式では、税率が複数あることを想定していません。
消費税の欄も1つしかないでしょう。
そこで、複数税率に対応した新たなインボイスという請求書を導入することになったのです。

消費税の納税を免除される免税事業者になる条件として、年間の売上高が1000万円未満であることが挙げられます。
個人事業主なら、この条件に当てはまることが多いでしょう。

個人事業主がインボイス制度に対応して登録しなければ、今後個人事業主から仕入れたものの仕入税額控除を受けることができなくなってしまいます。
そうなると、多くの企業では控除を受けられるようにするため、登録している事業者に仕入先を変更することを考えるのではないでしょうか?

それなら、個人事業主も登録すればいいだけだと思うかもしれませんが、そうなるとまた別の問題が生じます。
インボイス制度では、登録した事業者は免税事業者ではなく、課税事業者になってしまうのです。

課税事業者になった場合は、これまで通り仕入税額控除を受けることが可能となります。
その代わり、年間の売上高が1000万円未満であっても消費税を納税しなければならないため、負担が大きくなるのです。

簡易課税を用いて簡単に計算すると、売上高が800万円でありその半分を支出の場合、納税する消費税額は800万円×0.5×10%=40万円となります。
つまり、年間で40万円納税額が増えるということになるのです。

個人事業主にとって、この負担は大きなものとなるでしょう。
だからと言って、登録しなければ仕入税額控除が無くなり、仕事が減ってしまう可能性が高いのです。
どちらを選ぶべきか、選択を迫られている状態にあるのです。

インボイス制度の導入に伴い、税務署はインボイスがあることを絶対の要件とします。
そうなった場合、例えば仕入元から1,000円で仕入れた商品をお客様に3,000円で売った場合、通常なら3,000円から仕入税額を控除されて消費税は2,000円の10%、200円を納めることになります。

しかし、仕入元がインボイスの登録事業者ではなかった場合、仕入税額控除が認められません。
そうなると、3,000円の売上の10%、300円を納めなくてはならなくなるのです。

仕入税額控除を受けられる仕入元と受けられない仕入元、企業はどちらを選ぶでしょうか?
ほとんどの場合は、控除を受けられる方を選ぶでしょう。

だからこそ、免税事業者は自分のことだけを考えて登録しないのではなく、取引先のことも考えて判断しなければならなくなるのです。
場合によっては、取引先との相談も必要になるかもしれません。

インボイス制度によって増える手間

インボイス制度が導入された場合、個人事業主にとって増えるのは金銭的な負担だけではありません。
経理上の手間も、大幅に増えてしまうのです。

その理由となるのが、軽減税率の存在です。
現在の日本の消費税は、10%と8%の2つがあります。
そして、インボイス制度ではこれらの消費税対象となるものを、明確に区別しなくてはいけなくなるのです。

すべての事業者は、領収書と請求書それぞれで、税率別に合計額を出してそれを記載することが義務付けられます。
特に、飲食店では負担が大きいでしょう。

例えば、食品に関しては基本的に8%ですが、外食の場合は10%となり、また酒類も10%です。
その区別だけでも大変なのですが、調味料などではさらに細かく分けられているものがあります。

調味料のみりんには、本みりんやみりん風調味料があります。
このうち、本みりんは酒類に分類されるので、消費税率は10%です。
しかし、みりん風調味料は酒類に含まれないため、8%なのです。

こういった区別や、イートインとテイクアウトの違いなども踏まえて、それをすべて帳簿上で分けて記載していく必要があります。
免税事業者や簡易課税での納税をしている事業者も、取引先やお客様から分けるよう求められてしまえば、それに応じなくてはならないでしょう。

これにより、帳簿はこれまでよりも複雑化します。
個人事業主の場合は一人で経営から経理、実務迄兼任していることも多いため、その複雑化した帳簿に対応する時間がなかなかないということもあり得るでしょう。

個人事業主は、今後インボイス制度が導入された時にどう対応していくべきか、今から考えて備えておく必要があるでしょう。
導入された時に戸惑うことがないよう、しっかりと準備しておきましょう。

まとめ

インボイス制度の導入は、現在免税事業者である個人事業主にとって大きな負担となるものです。
これは負担が増えるだけではなく、選択肢を誤ってしまうと取引先を減らしてしまう可能性もあるのです。
今の通り免税事業者でいるということは、取引先に負担をかけることにもなるので、どうするべきかをしっかりと考えておきましょう。