保険業界は様々なリスクに備えるための取組みをしていますが、新たなリスクであるエマージング・リスクが生じた場合の備えは、十分なのでしょうか?
もちろん、可能な限り対応しようとはしているのですが、突如起こるエマージング・リスクは事前に取組むのが難しいでしょう。
保険会社は、どのように考えているのでしょうか?
エマージング・リスクの特徴
エマージング・リスクは、新興リスクとも呼ばれる新たに登場したリスクのことをいいます。
新たなリスクと聞くと珍しいように思えますが、実は珍しいというほどまれではありません。
保険業界においても、エマージング・リスクは馴染み深いものです。
過去に何度も発生しているエマージング・リスクをカバーするため、新たな商品を開発してきたため、保険会社の成長にはエマージング・リスクが大きく関わっていると言えるでしょう。
また、2015年からは主要な保険会社に対して、金融庁からリスクに関するレポートを提出するよう義務付けられたのですが、レポートの中には「エマージング・リスクの対応」という項目も含まれています。
エマージング・リスクが登場した際は、まずリスクを洗い出してリスク評価を検討しなくてはいけません。
保険商品にするためには、エマージング・リスクの特徴を把握する必要があるのです。
ただし、エマージング・リスクの特徴として、認知するのが難しく、認知した場合でもリスク評価が難しいという点があります。
リスクの除去や軽減の方法についても、確立していないことが多いのです。
また、エマージング・リスクは技術革新と結びついていることがあるため、適切にリスク・マネジメントやリスク・ガバナンスを行うには、技術革新についても側面から支援する必要があるでしょう。
エマージング・リスクは一定のリスクを除去した場合でも、まだリスクが残存しているのですが、リスクを自分でどうにかしたくない場合は、保険などを利用して他に移転する必要があるでしょう。
保険会社には、リスクを転移するために保険商品を開発することが求められているのですが、エマージング・リスクのリスク評価は困難なため、保険商品化するには多くの障害があるのです。
近年登場したエマージング・リスクには、期間が1年から3年未満の短期の影響が大きかったものとして、新興市場の危機や巨大自然災害、欧州のデフレ危機、ビッグデータ、クラウドの安全性などがあります。
3年以上の長期にわたって影響するもので影響が大きいものには、インターネットやネットワークの断片化、IoT、死亡増加要因の大気汚染、ナノテクノロジー、電磁波などがあげられています。
スイス再保険によって提示されたエマージング・リスクで、全体を見ると様々な種類のエマージング・リスクが一気に登場しているのです。
また、多くのリスクは技術革新に関係していることがわかるでしょう。
近年のエマージング・リスクは、過去のものとは異なる様相を呈しているように見えます。
今までのようなエマージング・リスクへの対処方法では、十分な対応ができない可能性もあります。
保険会社の取組み
エマージング・リスクへの取組みは、まずリスクを洗い出すことから始める必要があります。
リスクの同定とは別なので、混同しないようにしてください。
通常のリスク、既存のリスクは、わざわざ洗い出さなくてもリスクははっきりしています。
保険がないリスクは、要望があっても保険会社で商品化するのが難しいと判断されたのでしょう。
しかし、エマージング・リスクについては今まで予測されていなかったリスクや、予想を大きく上回ったリスクなので、困難ではありますが洗い出しをしなければ詳細がつかめないのです。
洗い出しを終えたエマージング・リスクに対しては、次にリスク評価を行います。
リスク評価は、定性的評価と定量的評価に分けられます。
しかし、エマージング・リスクはそもそも定性的評価が難しく、できないことも珍しくありません。
定量的評価は、さらに困難です。
データが十分にないため、分析ができないのです。
定性的評価も、定量的評価もできないリスクは、保険商品化できません。
洗い出しやリスク評価ができたエマージング・リスクについては、まず保険商品化するかを考えることとなります。
例えば、リスクの内容が従来の保険で対応できる場合は、新たな商品が必要ないのです。
検討した結果、新商品の発売にはつながらなかったとしても、保険会社にはすぐに大きな損失が生じるというわけではありません。
むしろ、エマージング・リスクが通常リスクとなった時に備えて、保険商品を開発した方がいいでしょう。
また、意図せずに従来の保険商品でカバーしていたケースもあります。
保険会社は、エマージング・リスクが保険契約の収支に与える影響や、既存商品の見直しなどに取組む必要があるでしょう。
もし、保険会社が見直しなどを怠ってしまった場合は、保険会社に大きな損失が生じてしまうことがあるのです。
従来のリスクに対応している保険商品がある場合は、全ての保険会社が洗い出しとリスク評価を行う必要があります。
もし、エマージング・リスクに該当していることで損失が出そうな場合は、保険約款を変更するなどして、エマージング・リスクを排除する必要があるでしょう。
しかし、契約者が変更を拒絶する可能性もあるので、慎重に対応する必要があります。
エマージング・リスクはリスク評価もできないため、必要な保険料を正確に算出することもできません。
保険は、概算で保険料を受け取り、契約期間満了後に精算するという方法になってしまうかもしれません。
多くの可能性を検討しながら、保険商品の内容を決定しましょう。
まとめ
エマージング・リスクは、過去に何度も発生して、今では通常リスクになっています。
しかし、新たに登場したエマージング・リスクはリスクの洗い出しやリスク評価などが困難で、正確に評価するのは難しいでしょう。
また、エマージング・リスクに対して既存の保険が対応できることもあるのですが、保険の契約内容は変更する必要があるかもしれません。
エマージング・リスクの内容は慎重に確認したうえで、保険商品を提案しましょう。