人材不足というエマージング・リスク

経営戦略

近年、多くのエマージング・リスクが生まれているのですが、中でも世界的なエマージング・リスクとなっているのが人材不足です。

世界各地の企業で最大のリスクともいわれている問題なのですが、なぜ世界中が人材不足に陥っているのでしょうか?

人材不足というエマージング・リスクについて、解説します。

人材不足というエマージング・リスク

人材不足については、世界中で指摘されている問題です。

以前から不足の傾向はあったのですが、近年はファミリーレストランやコンビニエンスストアなど24時間営業の店舗などが増えたことで、問題が表面化してきました。

人材不足になった要因としては、まず少子化があります。

以前から問題視されていた問題で、団塊の世代が定年を迎えたことで一気に人材が足りなくなってしまったのです。

また、地方から都市部へと人口が集中してしまっていることも要因の1つです。

日本でいえば、全国各地から東京都へと人口が移動しているため、地方では人材不足が明確になっています。

デフレに伴って、資金が頭打ちになってしまったことも要因です。

企業が人材を獲得、もしくは育成するための資金が足りないため、人材不足に陥ってしまいます。

人材不足に悩んでいるのは、日本の企業だけではありません。

アメリカの企業で、IT分野の調査や助言を行っているガートナーの「Emerging Risks Survey」というレポートでは、多くのリスクの中でも最大となるのが、人材不足だとされています。

今までのガートナーのレポートでは、リスクとしてクラウドコンピューティングやサイバーセキュリティ、強化されているプライバシー法規などの技術的な項目が挙げられていました。

しかし、新たなレポートでは人材不足が他のリスクを上回ったのです。

ガートナーの調査は、世界各地の企業を対象として四半期ごとに実施されています。

2018年の第4四半期版の調査結果では、各社の上級幹部100人以上からの回答の中で、直面している問題点は所属している企業の人材不足と、63%が回答しているのです。

回答者を業種別に見ると、金融サービスや消費者向けサービス、製造、政府、小売り、接客、非営利団体など様々な分野で人手不足を問題視しています。

ワースト5のリスクの中の1つにも選ばれていて、世界的に問題となっていることがわかるでしょう。

2018年上半期の段階では人材不足が登場していなかったのですが、後半になるにつれて問題視されるようになり、最終的には最も大きな問題点とされたのです。

プライバシー法規制の強化やクラウドコンピューティングなどの方が問題視されていたのですが、人材不足の方がさらに問題だと認識され始めました。

第4四半期の調査では、人材不足に続いて2位がプライバシー法規制の強化、3位が変化の速度、4位がデジタル化の遅れ、5位がデジタル化の誤った構想といったリスクが挙げられています。

プライバシー法規制の問題については、2018年5月にEUでGDPR(EU一般データ保護規則)が施行され、同年6月にカリフォルニア州でカリフォルニア州消費者プライバシー法が成立したことでクローズアップされ、多くの企業幹部が意識するようになったと考えられます。

1位の人材不足を除くと、いずれも技術関係の懸念となっているのが、興味深い点です。

人材不足の原因は、結局技術的な環境の変化にあるといえるのかもしれません。

仕事で必要になる技能が、昨今のDX(デジタルトランスフォーメーション)やICT化に伴って変化したため、そもそも所有している人が少ないという問題点もあるのです。

技術系の人材不足は、対応分野における懸念を増してしまったため、人材不足とテクノロジーに関しての懸念は切り離すことができず、連動しているといえます。

技術の進歩に、必要なスキルの習熟が追い付いていないのです。

ガートナーによると、プライバシー対策やサイバーセキュリティ、ソーシャルエンジニアリング、AI/ロボティクスのスキル不足、クラウドコンピューティングなど過去の調査で挙げられた技術的な問題によるリスクは、人材を確保して適切に運用することで、解消される可能性が高いとされています。

例えば、GDPRのようなプライバシー法規制に適切な対応をするには、データ保護担当の幹部職を設けることが推奨されるでしょう。

GDPRやデジタル化といった問題への対応を進めると、大量の専門的な人材が必要になり、企業内のあらゆる業務が影響を受けてしまうでしょう。

人材不足を解消するには?

人材不足を解消しようと思っても、必要とされるリスクに精通している幹部や、リスク解消に欠かせないスキルが必要となるポジションにふさわしい人材となると、簡単に見つけることはできません。

ガートナーのレポートでも、単純な人材戦略を行っているだけでは企業が直面している技術的リスクを緩和するのに必要な人材は確保できず、人材不足がいつまでも最大の懸案事項として残ってしまうということになるのです。

ガートナーによる人材不足の解消方法として、人材を外部から調達するという発想を見直すことを提唱しています。

新たな人材を見つけるのではなく、社内の既存人材を教育する方法へシフトすることを提案しているのです。

既にある人材を教育することで、深刻な人材不足の問題解決を目指すことを提案しているのです。

さらに、リスクチームと人事部門のリーダーが協力して、企業が今まさに直面している主な人材リスクの分野を見極めて、担当を明確に決めることも推奨しています。

部署が異なれば、持っているリスクの情報も異なります。

部署ごとにリスクを解決する方法を考えるのではなく、お互いに情報を持ち寄って解決を目指すのが最善策といえるでしょう。

まとめ

人材不足は、世界的な問題となっています。

DXの推進やICT化によって、従来のスキルでは対応できないケースが増えてきたため、まだ保有している人が少ないスキルを持っている人が必要となり、人材不足に陥っているのです。

また、少子化などの社会問題も、人材不足に拍車をかけています。

人材を確保する方法として提案されているのが、既存の人材を教育してスキルを身につける方法です。

自社の人材に、もう一度目を向けてみましょう。