2026年に施行される「欧州バッテリー規制」での日本企業への影響を考える

危機管理

EU(欧州連合)では、2026年にバッテリー規制が施行されることが決定されました。
これは、EU域内にリチウムイオン電池のサプライチェーンを構築するという思惑があるのですが、日本の企業にも多大な影響を及ぼすものです。
その影響とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?

欧州バッテリー規制とは?

EU域内では、2026年までに欧州バッテリー規制を施行する予定となっています。
これは、蓄電池に関して資源リサイクル率やCO2排出量などを欧州委員会に開示することを定めた、情報システムの整備に関する条項です。

EUでは、すでに2006年からRoHS規制がスタートしています。
RoHS規制は、特定有害物質に対する使用制限令の略称です。
これは、製造者に対して工業製品の中に含まれる化学物質に有害なものがないと証明することを義務付けたものです。

蓄電池には、ニッケルやコバルト、リチウムといった希少資源が含まれています。
また、爆発や発火などの危険性もあるため、環境負荷や安全を管理するためには規制を厳しくしなくてはならないのです。

欧州バッテリー規制では、蓄電池のライフサイクルにおいて資源リサイクル率やCO2排出量などを欧州委員会に対して、開示する情報システムを整備することを求められるようになります。

施行された場合は、バッテリーには個別の番号が割り当てられ、それを検索することで
製品情報を検索できるとともに使用されている原料や製造時・輸送時に排出されるCO2の量、サプライチェーン情報の共有によってリユースやリサイクルに関する情報などを知ることができるようになります。

2026年に施行される予定なのはEV(電気自動車)のバッテリーだけですが、今後はそれに留まらず携帯電話、スマホ、タブレットなどのモバイル機器や家電用のバッテリー、電力会社で使用されるような業務用の大型バッテリーなどバッテリー全般に同様の規制が適用されるようにあると予想されます。

2026年は完全施行の予定で、それ以前の2024年から徐々に一部分ずつ施行されていくと予想されるため、対応策はすぐに準備を開始して、2024年に間に合うようにしておいたほうがいいでしょう。

これは、2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロを目指す気候中立を目指す循環型経済行動計画の一環として行われるものです。
曽於のため、リサイクルを前提として製造者に種類別のバッテリー回収を義務付けることも考えられています。

日本企業への影響は?

日本企業に対しては、この施策が施行された際にどのような影響があり得るのでしょうか?
その影響が最も大きいのは、自動車産業のうちEU域内を市場とする企業です。

自動車産業では、カーボンゼロ宣言などの影響もあって現在急速にEV(電気自動車)へとシフトしつつあります。
そのため、欧州で販売することを考えている企業では製品を販売するだけではなく、EV製造後のバリューチェーンについてもデータを管理して開示する必要があるのです。

バリューチェーンには、使用やバッテリーの交換、メンテナンス、リユース・リサイクルなどが含まれます。
それに関するカーボンフットプリント、および資源リサイクルなどのデータに関して、管理して開示することが求められます。

2026年以降にEU域内でEVを販売していくには、この条件をクリアする必要があるのです。
また、サプライチェーンに関しても管理の対象となります。

サプライチェーンは、蓄電池の製品の組み立てから輸送、果てはその前の原材料の採掘や部品製造などに関しても含まれます。
その企業のCO2排出量、廃棄物の量や内容なども管理することになるのです。

この規制によって不安視されている点としては、まず欧州製の電池の価値が高まり日本製の電池の価値が下げられてしまうのではないか、という点です。
ただし、不安な点はそれに留まりません。

さらに不安なのは、技術やサプライチェーンなどの情報を丸裸にされてしまうのではないか、という点です。
電池に配合される材料の比率などは競争力の源泉に関わるものなので、それに関わるカーボンフットプリントなどの情報は秘匿したいのです。

それはその企業だけではなく、蓄電池の原材料の供給を担当する石油化学、運輸、電力、燃料、通信なども環境負荷データを開示するよう求められることになるでしょう。
そのため、ほぼすべての産業が対象となるのです。

その開示に応じるとしても、問題はあります。
このような変化に対応するためには、バリューチェーンを構成している世界中の取引先との間で、データをセキュアに共有するための共通プラットフォームを整備しなくてはならないでしょう。

デジタル先進国の産業界では、業務のデジタル化が急速に進められています。
代表的なものとしてはIoT、そしてAIがあります。
それ以外にも、ロボットによる自動化も進められており、ビッグデータの解析なども行われています。

ドイツでは、完成品を作っている大手メーカーはもちろん、部品等を提供するサプライヤーなども含めた垂直方向のシステム間連携を実現したインダストリー4.0(第4次産業革命)をリードしています。

業界をまたがるデータ共有は、あらゆる産業において業務を可能な限り自動化するための情報モデルやデータ管理方法の標準化などを進めることにも役立っています。
そして、欧州ではその仕組みを社会全体で実装する段階に入っているのです。

欧州各国の政府や民間企業、研究機関などはデータ提供者のプライバシーや権利を守りつつ、社会全体でデータをセキュアに活用できるような次世代の情報インフラを機構築するため、協力しています。
そのデータ共有プラットフォームは、「GAIA-X」と呼ばれています。

このプラットフォームが整備されることで、企業と取引先がデータを共有するためのシステムをより安価で簡単に、スピーディーでセキュアに構築することが可能となり、サプライチェーン企業の間でデータ共有を実現しやすくなり欧州バッテリー規制に対応することができるでしょう。

欧州市場に参戦して電気自動車を販売するためには、その規制に対応せざるを得ません。
情報を秘匿するのであれば、欧州市場から撤退することになるでしょう。
参加するのであれば、データベースの構築などの準備をしていく必要があります。

まとめ

欧州バッテリー規制は、日本の自動車産業を始めとして多分野の産業に影響を及ぼします。
また、自動車産業では今後欧州市場をどうするかという選択も迫られることになるでしょう。
参戦するのであれば、多くの産業に共通したデータベースの構築が求められます。
今から準備を始めなければ、規制が始まる2026年に間に合いません。
今後、どうしていくべきかを早急に考えていきましょう。