メタバースで横行するハラスメント

その他のリスク

近年話題となっている3次元仮想空間の「メタバース」は、2021年に米国のFacebook社が社名を変更して「Meta(メタ)」になると発表したことでその注目度がかなり高まりました。
利用者も増えるメタバースですが、その中で現在問題となっているのがハラスメントです。
メタバースで横行するハラスメントについて、解説します。

メタバースとは?

メタバースは、「超」を意味するメタと、「宇宙」を意味するユニバースを合わせた造語であり、元々はアメリカのサイバーパンク小説の中で出てきた名称でした。
現在、インターネットでつながる仮想空間が発展してきたことで、メタバースと呼ばれるようになりました。

メタバースの中でもなじみが深いものとして、MMORPGがあります。
世界中のユーザーが仮想空間に集って冒険をするサービスで、世界で初めて誕生したのは1997年のことでした。

そこから多くのゲームが登場し、メタバースが注目れるようになったのは2003年にリリースされ、2006年頃に登場した仮想世界サービスの先駆けである「Second Life」がブームとなったのがきっかけでした。

このサービスは、ユーザーが3DCGで構成された仮想世界で現実とは異なる生活を送ることができるというもので、MMORPGのようにクエストをクリアしたり経験値を得たりする必要がない自由な世界です。

最盛期は毎月1回以上アクセスするユーザーが100万人以上もいて、ユーザーには日本人も数多くいました。
また、ゲーム内の経済活動には仮想通貨が用いられており、これは現実通貨への換金も公認されていました。

当時はメタバースという言葉で呼ばれてはいなかったのですが、2021年に米国大手企業のFacebookが業績悪化予測に伴いメタバース実現へと本格的に動かしたことでメタバースという言葉が広まり、その筆頭としてSecond Lifeも再注目されました。

Facebookでは以前からVRヘッドセットを用いた仮想空間でのコミュニケーションを提案しており、2019年に「(Facebook)Horizon」というVRワールドを発表し、メタバースのプラットフォームを構築していました。

それに対して、モバイル機器を用いた位置情報アプリなどを提供する米国のNiantic社ではVRヘッドセットではなくAR技術による「現実世界のメタバース」を提唱していて、ARを用いたアプリもリリースされ人気となっています。

メタバースは様々な形で増え続け、別の世界や現実を超える現実として広まりつつあり、ユーザーも増加しています。
しかし、人が増えるとトラブルも増えてしまうものです。

メタバースに増えるハラスメント

メタバースのユーザーが増えたことで社会問題化しているのが、メタバースに横行するハラスメントです。
現実世界でもハラスメントは大きな問題となっていますが、メタバースでは特にそれが顕著となっているのです。

メタバースでは自分の分身となるアバターやキャラなどを用いてコミュニケーションをとることとなるのですが、それをSNSや掲示板のアカウントと変わらないように考えてモラルに欠ける行動をとる人が少なくありません。

特に多いのが、男性アバターから女性アバターに対してのセクシャルハラスメントです。
これについては、バーチャルYoutuber(Vtuber)でありメタバース文化エバンジェリストである、バーチャル美少女ねむさんとスイスの人類学者であるミラ(リュドミラ・ブレディキナ)さんとのユニットである「Nem×Mira」によって調査が行われました。

1年以内に5回以上VRヘッドマウントディスプレイを用いたソーシャルVRを利用したユーザーを対象としてアンケート調査を行った結果、876件の回答がありそのうち57.8%がハラスメントを経験したことがあり、69.0%が目撃したと答えています。

ハラスメントの種類別では、言葉によるハラスメントでは複数回答ありで最も多かったのが性的な言葉で62.5%、耳障りな音が61.2%、悪口が50.5%、暴力的な言葉が41.8%、ヘイトスピーチが40.6%、脅しが22.7%となっています。

同じく複数回答ありで物理的ハラスメントを受けたという人のうち、不必要な接触を受けたという人が48.7%、性的に触られたという人が42.9%、パーソナルスペースへの侵入が41.6%、性的ジェスチャーが34.4%、ストーカー行為が32.4%でした。

また、環境ハラスメントに分類されるものとしては、不適切なアバターを見せられたという人が68.6%、不快なコンテンツや暴力的なコンテンツを見せられたという人が45.4%います。

また、バーチャルならではのハラスメントも起こっています。
男性による性的なハラスメントの対象となるのは女性が多いのですが、メタバースではたとえ男性であっても女性型アバターを用いてそれを演じたためにセクシャルハラスメントを受けたという人が出ています。

元々女性だという場合はもちろんですが、性的マイノリティという場合でもセクシャルハラスメントを受けることがあります。
これは、特に北米で被害が多くなっています。

ハラスメントが原因で、メタバース生活のプレイ頻度や時間などが減ったという人や、他の人と接触しないプライベートワールドで過ごすことが増えた、という人も増えているのです。

では、メタバースにおけるハラスメントには法規制やガイドラインの制定は必要とされているのでしょうか?
半数以上の人は、法規制を求めずプラットフォームごとにガイドラインを定めるか、個々の良心に委ねられるものだと考えています。

日本では、SNSの誹謗中傷が深刻化して自殺者も出たことで、誹謗中傷対策を強化してプロバイダ責任法が改正され、法規制を受けるようになりました。
これは、メタバースにおいても適用される可能性があります。

しかし、世界中の人とつながるメタバースにおいて、日本国内だけの法規制だけでは効果がありません。
そのため、求められるのは法規制よりも、利用する人々のネット上でのマナー、ネチケットの向上でしょう。

メタバースは今後進化するにつれて単なるコミュニケーションツールやゲームに留まらず、仮想世界での生活を伴うものとなっていくでしょう。
それを利用する人も、現実と同じようにモラルをもって行動することが求められます。

まとめ

メタバースが進化するにつれて、仮想世界は現実に近づきつつあります。
その中でハラスメントが横行しているのは、インターネットが匿名性のコミュニケーションツールだと考えられていた頃の名残であり、現実に影響を及ぼすものと考えていない人が多いということでもあります。
今後、利用者にはメタバースが現実に影響するものだということを明確にするとともに、利用する上でのマナーなどを学ぶ機会が必要となるでしょう。