静かなる金融所得増税の正体

真実の眼鏡

2021年12月に、令和4年度税制改正大綱が取りまとめられました。
そこには証券・金融税制関連が課税強化される表現があるものの、足元の改正は見送られたと報道されて安心した人も多いでしょう。
しかし、実はいくつかの金融所得増税は、足元で静かに盛り込まれているのです。
具体的には、どのようなものなのでしょうか?

課税方式の変更

変更される主な点として、課税方式があります。
これまで、上場株式の譲渡による譲渡所得や配当などの所得については、いくつかの課税方式があったのですが、それが変更されるのです。

現状では、譲渡所得に関しては源泉徴収のみで課税する申告不要制度と、損益通算をするために確定申告をする申告分離課税の2つの方法がありました。
そして、配当所得の場合は上記2つに加えて、その他の給与などの所得と合算して課税される総合課税があります。

これについては、平成29年度に所得税と住民税で課税方式はそれぞれ別のものを選択できるようになっていて、例えば所得税に関しては総合課税で計算し、住民税は申告不要制度を選択できるようになっていたのです。

それが、令和6年度分以降は所得税と住民税の課税方式を一致させなければならなくなるのです。
控除額の減少や税率の上昇などはわかりやすい変更ですが、それとは違い分かりにくいため、「静かなる金融所得増税」ということになるのです。

課税方式を選択できることのメリット

課税方式を選択できなくなると言われても、それがどう影響するのかはわかりにくいかもしれません。
課税方式を選択できることには、どのようなメリットがあるのかを解説します。

まず、証券会社を通じて株を取引する際は、口座の種類を選ぶことができます。
その際、源泉徴収ありの特定口座を選択していれば、譲渡益や配当による利益を得た際は証券会社がその利益に対してかかる税金(所得税15%と住民税5%の合計20%)を利益から差し引き、源泉徴収として代わりに納税をしてもらえるようになっています。

この方式を選択している場合は、納税の必要がある場合でもその1年間の譲渡益や配当などの利益について、確定申告をする必要がなくなるのです。
これが、申告不要制度です。

しかし、配当利益がある場合はそれを源泉徴収ではなく総合課税として納税すると、税率が源泉徴収の場合の20%より低くなる可能性も考えられます。
その場合、源泉徴収によって20%を差し引かれていたとしても、確定申告をして過払いとなっている分の税金を還付してもらうことも可能となるのです。

総合課税の場合、課税所得金額に応じて所得税と住民税の税率は変わります。
所得税の場合、195万円以下なら通常税率は5%、それから10%、20%と上がっていき695~900万円以下なら23%となるのですが、配当に関しては10%の控除があります。

そのため、10%以下なら実質0%、695万円以下なら10%、900万円以下は13%となり、源泉徴収の場合の15%を下回ります。
一方、住民税は配当控除も含めて1000万円以下までは一律で7.2%、それ以上の場合は一律8.6%となるため、源泉徴収の場合を上回るのです。

そのため、所得税については総合課税を選択することで税率が低くなる可能性があり、住民税については源泉徴収による申告不要制度を選択することで総合課税の場合より税率を抑えるということができるのです。

申告不要の大きなメリットは、面倒な確定申告をしなくてもいいという点が最も大きいでしょう。
しかし、別途確定申告をする必要がある場合や、手続きに慣れている場合、還付される税額が大きくなる場合などは確定申告をするメリットがあると言えるのです。

なお、この2つで課税方式を別にするためには、以前であれば税務署に所得税の確定申告書を提出したうえで市区町村役場に住民税の申告について書類を提出する必要がありました。
しかし、令和3年度からは所得税の申告書に住民税の課税方式を選択できる項目が増えたので、役場への書類提出は不要となっています。

譲渡所得については、特に大きなメリットがありました。
申告不要か申告分離課税のどちらかを選ぶことができたのですが、申告分離課税を選択して確定申告する場合の主な目的は、損益通算や譲渡損失による繰り越し控除を受けるというのが一般的でしょう。

また、相続によって上場株式を取得して、その開始日から3年10カ月以内に売却した場合は租税特別措置法に定められた取得費加算の特例が適用されるため、それを目的とすることも考えられます。

譲渡所得は、譲渡価額から取得費と委託手数料などを差し引いた額となるのですが、この特例の場合は相続税評価額などから計算された額を取得費に加算することができるのです。

確定申告をすることで、その取得費の特例が適用されて所得税、住民税共に還付を受けることができるのですが、住民税の場合はその還付を放棄して申告不要を選択することで、国民健康保険料への影響を抑えることができる例もあるため、どちらがいいのかを検討する必要があるのです。

国民健康保険料や介護保険料、後期高齢者医療保険料などを計算する際は、住民税の課税所得金額がもとになっているのです。
70歳以上の被保険者の医療費自己負担割合も、同様に計算されています。

そのため、譲渡所得や配当について住民税を申告不要にすると、その所得はないものとして計算されるため、負担が増えることは回避することが可能です。
しかし、申告をする場合は保険料が、それぞれ所得割率を乗じた分だけ加算されてしまうのです。

其れには上限がありますが、例えば譲渡所得が1000万円を超える場合などはその上限に間違いなく到達してしまうでしょう。
また、70歳以上になると原則の自己負担割合は1割か2割、現役波所得者は3割負担となるので、確定申告をすることで3割負担となる可能性も高くなります。

ただし、会社員や公務員など健康保険組合や共済組合、協会けんぽに加入している場合であれば、保険料は給与や賞与を基準として決定されるので、譲渡所得や配当を確定申告しても影響がありません。

まとめ

譲渡所得や配当は、確定申告をする場合と源泉徴収ありにして申告不要にした場合、それぞれで損をするケース、得をするケースがあります。
そのため、臨機応変に課税方式を選択できるようにしておくことで、納税額を少なくすることができるのです。
その選択ができなくなることは、気づかれにくいですが金融所得増税になると言えるでしょう。
変更される点を把握して、どうするのが一番いいのかを検討してください。