ゼロゼロ融資による後遺症

その他のリスク

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、売上高の減少に苦しむ企業に実質無利子・無担保での融資が行われましたが、現在はその後遺症に銀行が苦しんでいます。
ゼロゼロ融資の返済が始まったことで、不良債権が増えていく事態を避けるために銀行側は対策が必要となります。
ゼロゼロ融資の後遺症について、解説します。

ゼロゼロ融資の後遺症とは?

2016年に日本で是マイナス金利政策が導入され、金融機関が日本銀行に決済用として保有している当座預金には元々原則として金利が付かないのですが、一定以上の残高がある場合は年率で0.1%が徴収されるようになりました。

この政策によって住宅ローンの借入金利は低下し、預金利息もほぼゼロの状態となったことで、金融機関の収益は悪化して苦しんでいます。
そこに追い打ちをかけたのが、地方の高齢化や人口減少による借り手の減少です。

2018年に消滅可能性都市として発表されたのは927自治体で、これは2014年に発表されたものよりも31自治体が増えており、2014年に境界線付近にあった過疎地域の自治体が全て消滅可能性都市になっています。

そのような状況で新型コロナウイルスが流行し、感染拡大となったことで銀行には転機が訪れました。
コロナ禍で売上が減少した企業に対して、実質無利子・無担保のゼロゼロ融資が実行されたのです。

この融資によって、低金利にあえぐ金融機関、特に地方銀行が一時的に救われることとなりました。
この融資は各都道府県が利子を負担して、融資先の返済が滞った場合は信用保証協会が肩代わりしてくれ、それを政府が支えるという形になっています。

コロナ禍が本格化する直前の2020年3月期には、上場している地方銀行のうち7割以上が減益・赤字決算となっていたのですが、その翌年には融資が拡大し、その割合が5割以下になったのです。

さらに2022年3月期には16%にまで減少していて、84%の地方銀行は増益・黒字に転換しています。
一見すると良いことのように思えるのですが、実はこれも後遺症の原因となっています。

一時的に企業の倒産を助けることができた良い側面は確かにありますが、その一方で借り入れた企業は業績が回復しなかった場合は過剰な債務を抱えることとなり、さらに苦しい状況へと追い込まれる可能性があるのです。

この融資では、もし借主が返済できない状況になってしまった場合でも信用保証協会や政府が債務を弁済してくれるため、通常であれば審査に通らないような企業であっても融資を実行したケースが多く、元本の返済が本格化した2021年には新たに借り換えを申請した企業も多かったのですが、その中には審査に通らないケースも少なくないのです。

信用保証協会が返済を肩代わりした場合、銀行が企業に貸している「プロパー融資」の返済ができないこととなり、倒産に追い込まれて不良債権になってしまう可能性が高まってしまいます。

そうなった場合、銀行は貸倒引当金を増加させることとなり、収益悪化につながってしまうことを意味します。
特に地方銀行ではアメリカを中心とした諸外国の金利上昇によって外国債券を中心とした含み損が増加しているため、経営がさらに厳しい状況へと追い込まれてしまいます。

赤字ビジネスへの対応

こういった中で、赤字ビジネスに対してアクションを起こす地方銀行もあります。
東京都を地盤とするきらぼし銀行では、ゼロゼロ融資を1万件以上の企業に実施したものの、その返済が始まるタイミングで企業の倒産を防ぐべくアクションを起こしています。

ヒアリングを行い、資金繰りのデータなども精査した結果から元本返済を延期したり、新規融資を行ったりすることで対応しています。
しかし、返済条件を緩和しても小規模企業を中心として事業継続を諦めるケースが増えているため、倒産件数が増加しないかを心配されています。

この銀行ではゼロゼロ融資が始まった段階で融資管理部を設立し、融資した企業の現状を把握し、損益や資金繰りの経緯などもモニタリングを踏まえて問題点をとらえ、経営陣に改善を促してきました。

積極的に対話をして、調査結果を踏まえて赤字部門があることを把握してもらい、それを取りやめるのではなく黒字化するためのアクションを行い企業の黒字化を目指していくことを提案し、企業への愚直な支援を行っていました。

金融機関では、融資先企業に対して多様な再生支援策を用意しており、傘下や外部のファンドと協力して融資先の資本を増強することで積極的な投資を促したり、人材を派遣したり、あるいはM&Aの相手となる企業を紹介したりして、融資先の収益力を向上させようとしているのです。

そして、債権回収業者、サービサーの活用にも注目されています。
サービサーではこれまで案件ごとに参加するか検討する仕組みになっていて、情報の共有などを綿密にすることで再生案件の処理スピードを向上させることが可能となっています。

過剰債務によって経営環境が厳しくなっている企業に融資をしている金融機関では、債権管理業務を強化するためにサービサーのノウハウを参考にしています。
きらぼし銀行も、全国に拠点があるエイチ・エス債権回収を完全子会社化しています。

こういった動きには、金融機関の不良債権処理が不足しているという点が原因となっています。
かつては不良債権の回収を担当していた人員も、今は銀行から離れてしまっているのです。

サービサーは金融機関と違って色々な金融サービスを取り扱っておらず、債権回収・再生を専門としている業者なので、しがらみが少なく自由度が高いというのが特徴です。
事業を立て直すことで債権の回収率を上げるため、再生支援も行っているのです。

しかし、サービサーが動けるのは銀行が損切りをした債権なので、決して万能ではありません。
また、政府では中小企業への支援を新たに考えているのですが、それでも企業が復活できる材料はいまだに見つかっていません。

まとめ

政府が導入したゼロゼロ融資は、コロナ禍の売り上げ減少に苦しむ企業だけではなく融資を行う銀行にとっても救いとなるものでした。
しかし、いざ回収する段になると到底スムーズとはいえず、今度は銀行が苦しむようになってしまいます。
サービサーなどとも協力して企業の再生に取り組み、債権の回収を目指す銀行ですが、かつて倒産した銀行があるように絶対倒産しないというわけではないので、注意が必要です