変わりゆく労働市場に対応出来る人事戦略「リスキリング」とは?

経営戦略

2022年、新語・流行語大賞に「リスキリング」が登場しました。
変化が著しい労働市場において、対応できる人材を確保するための人事戦略として有効なリスキリングは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
リスキリングの意味やなぜ必要とされるのか、企業が導入する際の注意点は何かを解説します。

リスキリングとは?

今は技術革新が進み、ビジネスモデルも次々と変化していく時代です。
従来のビジネスモデルを想定して採用、育成してきた人材では対応できないケースも増えています。

労働市場も著しく変化していて、対応できる人材を求めようにも判断が難しい状況です。
すでにいる人材にも活躍してもらうための対策が必要となっている今、リスキリングという考えに注目が集まっています。

リスキリングというのは、技術革新、ビジネスにおいて求められるものの変化に対応するため、業務を遂行するのに必要なスキルや知識などを新たに学ぶことを言います。
2020年のダボス会議でリスキリング革命が発表されたことで、一躍注目を集めるようになりました。

岸田総理も、所信表明演説の中でリスキリングに触れ、今後巨額の資金を投入すると発言しています。
2022年には、新語・流行語大賞にもノミネートされました。

経済産業省では、新たな職業に就く、あるいは現在の職業で必要とされるスキルが大きく変化した際に対応するため、必要なスキルを獲得する、もしくはさせることと定義しています。

リスキリングのことを、DX教育だと考えている人も少なくありません。
実際に、DX化に対応できるようスキルを習得することを求められることが多いため、DX教育のことと思われがちですが、実際にはDX教育に限らず様々なスキルの習得を指しています。

リスキリングは、自主的に学ぶことと企業が教育すること、両方が求められます。
社会の要請によって就業者のスキルを変質させるのですが、本人の主体性がなければ成功することはないのです。

なぜリスキリングが注目されているのか

リスキリングが注目されるきっかけとなったのは、2020年の世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議で、主要な議題として挙げられたことです。
第4次産業革命に伴って起こる技術変化に対応できるよう、2030年までに10億人を対象として仕事や教育、スキルなどを提供するという内容でした。

第4次産業革命には、ロボティクスやバイオ革命のように技術の大きな変化が含まれます。
中でも特に注目されているのが、DXです。
DXの文脈の中でも、リスキリングという言葉が使われることが多くなりました。

2022年に、岸田総理は総合政策の一環として、リスキリングの支援についての考えを表明しました。
人への投資、企業間の労働移動の円滑化のために、受け入れ企業に対する支援やリスキリングから転職までを支援する制度について考えているのです。

岸田総理が掲げている「新しい資本主義」という考えを実現するには、人への投資が重要と考えていることを示しています。
投資というのが、リスキリング支援です。

個人のリスキリング支援には、資金を投入する方針も示しているため、国内ではリスキリングに取り組む企業も増えるでしょう。
ただし、リスキリングを受ける本人が自主的に取り組まなければ、十分な効果には期待できません。

企業のリスキリング推進

リスキリングを企業が推進する場合は、様々なメリットがあります。
現代日本では、人材不足が顕著になっているのですが、リスキリングによって人材不足に対応することが可能となります。

国内の労働者は、10年以内に事務職、生産職でかなりの人数が余剰になってしまう一方、デジタル人材や専門職については同程度以上人数が不足するというのが、三菱総合研究所の推計で予測されています。

DX人材は、外部から採用するというのも難しいでしょう。
外から人材を得ることができないのであれば、社内の人材にリスキリングを行うことで、必要なスキルを身に着けてもらえば、企業としても望ましい状況です。

リスキリングの推進は、従業員に学びの機会を提供することになり、キャリア形成を支援することになり、従業員のエンゲージメント向上にもつながるでしょう。
エンゲージメントの向上は、生産性や業績アップにも貢献することとなります。

また、リスキリングによって従業員が自主的に新たなスキルを獲得したいと考えるようになり、自立型人材が増えることとなり、企業全体がイノベーティブな組織へと変わることにもつながっていきます。

リスキリングを進める際は、まず事業戦略に基づいて必要なスキル、求められる人物像を定めます。
目的ではないため、具体的に何を得たいのかを明確にしたうえで実施しなくてはいけません。

目的に沿って教育プログラムを定め、どのように学習するのかを決めていきます。
学習方法は幅広く用意しておき、学習者が希望に沿った方法を選ぶことができるようにしておくことで、学びを促進することにつながるでしょう。

プログラムを定めたら、社員の中で取り組みを希望する人を見つけ、実際に取り組んでもらいます。
取り組む時間は就業時間内にしなければ、やる気を損なう可能性があるため注意してください。

リスキリングで学んだことを実践で生かすことができれば、成功と言えるでしょう。
覚えたことは、実践しなければ徐々に忘れてしまうため、活用しつつフィードバックの機会も設けて、スキルを繰り返し磨いていきましょう。

ただし、リスキニングは導入する際の負担が大きく、従業員のモチベーションを維持するのも難しいというデメリットがあります。
専門家にリスキニングを依頼することで、費用も発生するため注意してください。

まとめ

リスキリングは、必要なスキルが変化した際に新たなスキルを習得させる、あるいはすることをいいます。
技術革新などで、近年ではDXのスキルが特に必要とされているように、労働市場は常に変化していて、時代によって必要なスキルも変わってくるのです。
新たな人材を確保するのではなく、すでにいる人材に新たなスキルを覚えてもらうことで、人材を十分に活用できるようになるでしょう。