近年、医師の総数は増加傾向にあるのですが、一方で消化器外科医が減少している点が問題となっているのです。
日本消化器外科学会では、早ければ10年以内には地域における消化器外科の診療体制を維持することが難しくなってしまうと警鐘を鳴らしているのです。
なぜ消化器外科医が不足しているのか、原因について解説します。
消化器外科医が不足しているのはなぜ?
医師には、内科医や外科医、麻酔医などがいて、さらに脳外科医や呼吸器内科医など細分化された専門分野に分けられていくのです。
外科医は手術を担当するため、大きな事故などがあったときに宿直の医師だけでは手が足りないようであればすぐに呼び出されます。
外科医は全般的に激務となるのですが、中でも消化器外科医だけが減少しているのは何が原因なのでしょうか?
原因として考えられる点の1つに給与への不満があり、業務が他の外科医よりも多くなりがちなのに給与が変わらない、という点に不満を抱いている人がいるのです。
精神的、肉体的な負担が増えているのにも関わらず、苦労に見合うだけの給与をもらっていないと考えて不満に思っています。
外科医は単に手術だけをすればいいというわけではなく、術前の検査や患者への説明、術後のフォローなども重要な業務で、救急対応も多く担当しているのです。
特に消化器科の対象となる臓器の種類は多く、一人前になるまでに覚えることは多岐に渡り、最近ではロボット手術などの新たな技術も必要とされています。
特に厳しい立場にいるのが大学病院の医師で、医学部の教員は仕事量が多いのに他の学部の教員と給与が変わらないのです。
医学部生は、大学病院で苦労している教員の苦労を目の当たりにしながら学んでいくため、消化器外科医を希望する人が減少してしまいます。
呼吸器外科や乳腺外科のように一般外科から専門分化して発展してきた科目とは違い、消化器外科は多くの手術を行っているのです。
がんの手術だけではなく、ヘルニアや虫垂炎のように他の科では対応していない手術を一手に引き受けるようになっています。
確かに心臓血管外科や脳神経外科をはじめ、他の外科系診療科でも、夜間や休日の対応は必要です。
ただ消化器外科は対象となる患者数がとても多いため、緊急手術の対象となる疾患が他よりも多くなっています。
緊急対応が求められたり、夜間に呼び出されたりしてもまた次の日も出勤しなければいけない労働環境は、以前は当たり前でした。
しかし男女共同参画の現代にあって、医学生や研修医たちは消化器外科医の働き方はできないと考えてしまいがちになっています。
ましてや妊娠や出産、育児など将来のことを考えると、女性の外科医は身構えてしまうのではないでしょうか。
医師の総数については厚生労働省の調査結果があるのですが、実働している消化器外科医の現状は外科系学会の会員数の推移グラフから読み取ることができます。
消化器外科医の数は、2000年時点と比較して20年でおよそ1割減少しており、呼吸器外科医はほぼ同数、他は微増から最大で1.4倍にまで増えているのです。
消化器外科医は今後増えるのか
消化器外科医が今後増えるには、先人が消化器外科医のメリットについてアピールしていくのが一番の近道といえます。
しかし、アンケート結果では後輩に消化器外科医となることを勧めると回答した人が38%、子どもなど身近な人に勧めると答えた人はわずか14%でした。
自身が消化器外科医であれば、後輩や子どもなどには半分以上が勧めるのではないかと思えますが、実際にはほとんど勧める人がいません。
実際に消化器外科医として働いている人にとって、メリットがある道とはいえないと考えているのでしょう。
しかし、消化器外科医の業務内容は非常に幅広いため、スペシャリストではなくジェネラリストを目指すのであれば向いているといえます。
また、将来的に開業も視野に入れている場合は、できることが増えるというのは大きなメリットになるでしょう。
生涯勤務医を続けるのであればあまり向いていないかもしれませんが、キャリアアップを目指す医師であれば志す価値はあるかもしれません。
現在、日本消化器外科学会は新規に入会する人が減少していて、1990年以前に入会した60歳を超える会員が大半を占めているのです。
年齢別の会員分布をみた場合は60代がピークとなっていて、新規入会者が現状のままだと10年後には65歳以上の会員が4分の3を占めることになります。
さらに高齢医師もリタイアしていくため、20年後には会員数が現在の半分にまで減少してしまうこととなるでしょう。
もちろん、最悪の想定であり実際に想定通り進むとは限らないのですが、もし想定通りになった場合は現在と同じ医療を提供できなくなってしまいます。
学会の課題としては、急激に会員が減少するのを防ぐことと65歳以下の会員を減少させないことがあるでしょう。
特に、65歳以下の会員数の減少については、実際に減少した場合に備えて新たな医療提供体制の構築も考える必要があります。
2つの課題には共通する点もあるため、全体の問題点について解決策を講じる必要があるため、学会は総力を挙げて取り組む必要があるでしょう。
消化器外科医はなり手が少ないとはいえ、医療提供体制の中で特に重要な役割を担っているため、減少してしまった場合は多くの医療が提供できなくなります。
他の診療科目の医師では代わりになることができないため、今後は消化器外科医になるメリットについてアピールしていく必要があるでしょう。
消化器外科医として働いている医師も、後輩が進んでなりたがるような環境を構築するように努めていく必要があります。
まとめ
消化器外科医は現在減少を続けており、だんだんと不足している状態となっているのですが、原因としては他の医師と比べて業務が忙しくなるという点があるのです。
給与は変わらないのに業務内容は多岐にわたり、何かあったときに呼び出されることも多いため、不人気となっています。
実際に消化器外科医として働く人も後輩や子どもに勧めたいという人が少ないため、今後は魅力をアピールしていく必要があるでしょう。