アメリカがイランの核施設を攻撃したため、イランの国会ではホルムズ海峡を封鎖すると決定したことを国内メディアが報じたのです。
しかし、まだ最高安全保障委員会の最終決定が出ていないため封鎖はされていないのですが、今後実際に封鎖される可能性は十分にあるでしょう。
ホルムズ海峡封鎖のリスクについて、解説します。
ホルムズ海峡を封鎖するとどうなる?
ホルムズ海峡というのはペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ海峡で、オマーン湾の向こうはアラビア海につながるのです。
全長160km、最も狭い場所の幅は約33kmと狭いのですが、深さと広さは十分なので世界最大級の原油タンカーも通ることができます。
アメリカのエネルギー情報局では、ホルムズ海峡のことをチョークポイントと表現しているのです。
海峡を通る原油の量は非常に多く、世界中の消費量の5分の1を占めるほどとなっています。
主に、イランと周辺の中東の石油産出国が海峡を通じて、世界中に原油を輸出しているのです。
特に、サウジアラビアは最大の輸出国で、運ばれていく原油のうち約38%はサウジアラビアの輸出分となっています。
輸出された原油はインドや中国、韓国などアジアに向けて運ばれており、ホルムズの供給が混乱した場合はアジアが最も影響を受ける可能性が高いでしょう。
アラブ首長国連邦とサウジアラビアでは迂回することのできるパイプラインがあるのですが、輸送できる量は半分以下になってしまいます。
石油以外にも、世界の液化天然ガス貿易のうち、主にカタールからの輸出を中心として約20%もホルムズ海峡を通っているのです。
日本にとってもホルムズ海峡は重要な場所であり、2024年の中東向け輸出は4兆を超えていて前年比18.0%増、輸入は約13兆円で2.7%減となっています。
国別でみると、輸出と輸入のどちらも対アラブ首長国連邦が首位となっていて、周囲の国も輸送のため海峡を通っていることが多いのです。
中東の輸出における重要な役割を担っていて、他に通るところがないことも多いのですが、今までに封鎖が危惧される事態に陥ったことも何度かあります。
イランは、ホルムズ海峡を完全に封鎖した事例はないのですが、封鎖が危惧されるだけでも原油価格に影響を及ぼしてきたのです。
1980年から1988年まで続いた武力衝突であるイラン・イラク戦争では、お互いに石油を相手が輸出できないよう妨害をしていました。
ペルシャ湾でタンカーに対して機雷の敷設による航行妨害やミサイルでの攻撃などがあったことで、タンカーの保険コストが大幅に上昇したのです。
また、欧米が核開発に関連してイラン産の原油を禁輸にすることを決定した際は、対抗措置として海峡を封鎖する可能性があると警告しました。
ただし、結局実行に踏み切ることはなく、イランが撤回したといった出来事があったのです。
アメリカでは、第一次トランプ政権においてイランへの制裁が再開されたため、イランのロウハニ大統領は海峡封鎖に言及しています。
2019年5月以降に起こった、日本とノルウェーのタンカーをはじめとした商船への襲撃について、イランの関与が疑われたもののイランは否定しているのです。
実際に封鎖はできるのか
2025年6月13日にイスラエルがイランへの攻撃を開始し、イランとの間で交戦状態となっていました。
トランプ大統領は6月22日に、イランが保有する3か所の核施設を攻撃したことを明らかしたのです。
イランでは、国会がホルムズ海峡について対抗措置として封鎖することを決定したと国内メディアが報じているのですが、最終決定権は最高安全保障委員会にあります。
イランに対して、アメリカやイスラエルが攻撃していることについて専門家が注目しているのが、ホルムズ海峡の封鎖の可能性です。
しかし、機雷の敷設などで封鎖してしまった場合は、イランでも石油の輸出ができなくなり経済に深刻なダメージを受けることになります。
特に、イラン産石油は中国が最大の買い手の1つとなっているため、深い結びつきのある友好国にもダメージを与えることになるでしょう。
ホルムズ海峡は国際海峡に該当するため、通過通航権は全ての外国船舶に認められていて、封鎖できないというのが原則です。
封鎖してしまうと、国際法違反になるかもしれません。
また、向こう岸にはオマーンがあるため、同意を得ずに封鎖してしまえばオマーンの主権を侵害することになります。
ホルムズ海峡は、右にペルシャ湾、左にオマーン湾と挟まれていて、下にイラン、左上から右にアラビア半島のオマーン、アラブ首長国連邦、カタールを隔てているのです。
エネルギー・金属鉱物資源機構は、イランが海峡を封鎖すると自国だけではなく国際的なエネルギー危機をもたらすため、実施する合理的な理由はないと考えています。
可能性があるとすれば、自国の体制が攻撃を受けて存亡の危機であることが明らかになった場合だけだと分析しているのです。
ただし、存亡の危機とまではいかなかったとしても、限定的な措置を実施する可能性は十分にあると考えられます。
レッドラインに該当するような行為は避けたとしても、グレーゾーンを渡るような戦略によって、一時的に原油の供給不足にする可能性はあるのです。
一次的に原油の通過が妨げられるだけでも供給には大幅な遅れが生じ、世界のエネルギー価格が輸送コストの上昇によって値上がりする可能性があります。
また、アメリカはインフレに苦しんでいるため、保険料の値上がりや航路変更による輸送コスト上昇などを起こすだけでも、圧力となるのです。
イランにとっては、実行しないとしても言及することで可能性をほのめかすことが、最も効果的な牽制手段となります。
まとめ
ホルムズ海峡は、海上交通の重要な場所であり世界の石油消費量の約20%が通っていて、液化天然ガス貿易の約20%も通っています。
日本にとっても重要な場所であり、中東向けの輸出が増えているのですが多くはホルムズ海峡を通っているのです。
イランは封鎖をほのめかしているものの、国際法などで禁止されているため、かなり追い詰められない限りは実行することはないと思われます。