役員の損害賠償補償の保険は会社が保険料を負担しても良い?

会社の取締役や監査役等は、職務を執行する上で会社に損害を生じさせた場合にその賠償責任を負うことがあります。会社が役員へ賠償請求することが困難なケースでは、会社に代って株主がその役員等に賠償請求することも可能です。このことを「株主代表訴訟」と言います。

増える株主代表訴訟
株主代表訴訟は印紙税額が低廉化されたことで現在増加の一途をたどっている状況です。このような事態から、役員は責任負担の軽減のために「会社役員損害賠償責任保険」に加入を検討することが増えています。

会社役員損害賠償責任保険の保険料負担者は?
役員を守るために加入する会社役員損害賠償責任保険ですが、この保険料について、さらに役員の負担軽減のために保険料を会社が負担するということも検討される場合があります。しかしこの場合、次のような問題が生じる可能性があると指摘されていました。
・利益相反取引に該当する

役員のために保険料を負担するということは、役員に対して利益を与えるとも考えられます。これは会社法上で禁止されている利益供与、もしくは利益相反取引に該当するということになるでしょう。
・役員の違法行為を促す結果になる

そして会社に損害を生じさせたのに、会社が負担した保険で損害が補填されることにも違和感があり、役員の任務懈怠や違法行為を促すことになるとも考えられます。
・税務上の問題

会社役員損害賠償責任保険の株主代表訴訟補償特約については、会社法上の問題から考えて保険料を会社が負担する場合には役員に対する給与とみなし給与課税の対象とされていました。しかし会社に対して悪意のある行為での損害については免責規定が設けられているため、給与課税はするべきではないとも考えられます。

問題は解消された?
経済産業省は2016年2月に会社が会社役員損害賠償責任保険の保険料を負担することに対して見解を公表しています。

会社法上の問題については、利益相反取引に関する手続きに配慮し、取締役会の承認、社外取締役が過半数の構成員の委員会の同意もしくは社外取締役全員の同意を得れば会社法上の問題は生じないということが明確化されました。

さらに税務上の問題については、国税庁に照会し同様の手続きを経ることで株主代表訴訟補償特約に関して給与課税はしないということが公表されました。

役員への就任がスムーズに
役員は業務執行で会社や第三者に損害を与えた場合には高額の賠償責任を負う可能性があります。これは会社役員にとって大きな負担となるため、賠償責任保険の保険料は会社が負担し役員に就任しやすくすることが検討されていました。

これまでは様々な問題点が指摘されていたのですが、経産省が公表で見解を明らかにしたことで問題は解消されたと考えられます。