ブロックチェーン技術がもたらす金融機関への影響

その他のリスク

仮想通貨の分野で登場した、分散型台帳の応用技術であるブロックチェーンは、金融分野において非常に注目されることとなりました。
金融システムの一部を担って金融機関に大きな変革をもたらすと期待されているブロックチェーンですが、実際にはどのような影響が生じているのでしょうか?

ブロックチェーンとは?

ブロックチェーンは、核となるものを持たず複数のブロックに情報を分散させ、相互補完することで情報を管理するという仮想通貨のビットコインから登場した技術です。
管理するのはネットワークの参加者であり、経済的インセンティブを与えて正当な取引情報を管理するようになっています。

論文として発表されたのが2008年、それから15年が経過した今は金融に限らず、物流やエネルギー、サプライチェーン、自己証明型認証、健康・医療記録、など様々な分野で活用される、非常に有用な技術となっています。

その中でもやはり金融分野で活用されるケースは多いものの、2017年にはアメリカのモルガン・チェースのCEOであるジェイミー・ダイモン氏がビットコインについて、17世紀オランダで起こったチューリップ市場のバブルよりもたちが悪いもので、結局うまくいくことはないだろうと語っていました。

また、アメリカの金融大手のゴールドマン・サックスの前CEOであるロイド・ブランクファイン氏も、1晩で20%も値動きするような代物は通貨と思うことはできない、不正を犯す手段にしかならないと言っています。

このように、金融分野においてはビットコイン、ひいてはブロックチェーンに対して拒否反応も多かったのですが、ビットコインと切り離して考えたブロックチェーンという技術に関しては活用されるようになったのです。

金融分野におけるブロックチェーンの活用

金融分野ではすでにブロックチェーンを活用しているケースも多く、他通貨同時決済業務を行うCLS銀行ではブロックチェーン技術を用いたネット決済を行っていて、国際銀行間通信協会によって決済を代替するXPRという仮想通貨もリップルによって発行されています。

オーストラリアの株式市場では、清算・決済のインフラに参加者限定型の分散台帳へと移行することを計画しています。
さらに、複数の先進中央銀行では国境を超えるホールセール部門で決済の効率性やスピード、透明性を高める実験を行っています。

しかし、それよりも重要なのが金融システムのアーキテクチャに与える効果です。
フィンテックによってもたらされるイノベーションは、銀行口座をトークンへと置き換えて銀行を中心とした金融システムから決済を中心としたものへと変化させているのです。

ブロックチェーン技術の活用は、決済ネットワークをデジタルプラットフォームとエコシステムからなるものとして、その周囲に融資やMMF、医療保険、資産管理、暗号資産によるファイナンスなどがあって発展していくというシステムに変化させているのです。

こういったシステムは、新たなシステムとして既存のものとは別に扱われ、国境による制約を受けず自らのネットワークに基づいたデジタル経済圏を築いていくこととなり、金融分野における新機軸となります。

また、ビットコインのような民間によって発行された多様な仮想通貨は、貨幣の持つ価値尺度、価値の貯蔵手段、交換手段の3つの機能が分解されてきています。
価格変動の激しさから価値尺度という機能は持たず、コモディティのような役割を持つものとして扱われるようになっているのです。

仮想通貨において広く衝撃を与えることとなったのが、フェイスブックが公表したリブラ発行計画です。
リブラは民間が発行するステーブルコインで、複数の異なる通貨建ての準備資産によって裏付けられる世界合成通貨となる可能性を示しました。

これは2020年に発行予定とされ、Diemと改称されたものの予定通りに発行されず、2022年にはサービス提供を断念したと発表されました。
実際には発行されなかったものの、その影響力はかなりのものとなると予測されました。

民間企業ではなく、中央銀行によるデジタル通貨の発行も試みられています。
これが実現した場合は、その国における経済が大きく変化することとなるでしょう。
中国やスウェーデンではその開発調査を終えていて、ウルグアイやベネズエラでは実験的な試みが行われています。

ブロックチェーンの課題

ブロックチェーン技術は金融機関に大きな影響を与えていて、様々な役割をもって活用されています。
しかし、金融機関の中心をブロックチェーンへと変容させるためには、いくつかの課題が残されています。

まずはスケーラビリティ問題と言われる同時処理が可能な取引量の限界で、ブロックチェーンの場合は一定時間でまとめることができる取引記録(トランザクション)の量に限界があるため、一定以上の量の取引ができないのです。

これを決定づけるのがコンセンサスアルゴリズムで、ビットコインの場合はProof of Workを採用しています。
この場合、ある計算に成功したノードが取引記録をまとめることができる権利を得るのですが、ブロックサイズは1MBに制限されているため、すぐにいっぱいになってしまうのです。

その場合は次のブロックが生成されるのですが、それはノード計算を行ってからとなっているため、計算が終了するまでの10分が経過しなければ生成されないのです。
さらに、すべてのノードが同じ取引記録を持つため、ノードが増えればその分オンタイムで処理しなくてはならない量が増え、計算が追い付かなくなっていきます。

1秒間のトランザクション処理量を示すtpsを指標としてスケーラビリティを測るのが一般的なのですが、ビットコインの場合は7tpsしかありません。
クレジットカードは数万tpsと言われているので、圧倒的に処理量が違うのです。

また、ブロックチェーンは対改ざん性が高いのが特徴ですが、セキュリティについては現実性には乏しいものの51%問題を抱えている点がリスクとなっています。
また、その性質から変更する可能性のある情報の保存には向いていません。

まとめ

ブロックチェーン技術は、登場から10年以上が経過して様々な分野で活用されるようになり、金融機関でも活用される事例が増えています。
そして以前から金融機関の代替となりうると言われ、金融機関への影響も大きいように思われますが、実際にはまだまだ金融機関の代わりとなるのは難しいため、影響はそれほど大きくはならず、現状では新たなデジタル経済圏を築き上げるだけとなるでしょう。