トラブルから会社を守るために知っておくべき法律とは?

法律なんて知らなくても経営はできる。
なかなか法律の勉強をする時間がない。という経営者の方が多いのではないでしょうか。
大企業・中小企業問わず事業を行う上でいろいろな経済摩擦や社会摩擦を起こす可能性があり、一度トラブルが発生すれば社会的責任を求められる時代になっています。
企業が取引を増やし、事業を拡大するのに比例してより多くのリスクを伴うことになります。大切なことは、これらのリスクをいかに防ぎ、無くすことができるか、無くすことが難しくても、いかに最小限にとどめるか。という意識を持つことです。
事業活動を行う上で起こりうるトラブルの視点から法律をみていきます。

口約束は契約として成立している?

会社では、取引が成立すると契約が締結されることになります。
契約については契約当事者がお互いに契約しようとする意思の合意があれば成立したことになります。つまり、契約書等の書面がなくても契約が締結されたことになるのです。
契約書などの書面がない場合、「言った」「言わない」「約束した」「約束しない」など、契約の内容に関して争いになった時の証拠能力が弱くなり、ときに訴訟等の紛争に発展する可能性もあります。最近ではEメールでのやりとりが合意の証拠になるケースもありますので、契約の交渉・締結にあたっては契約の相手方が何者か?ということを十分に確認する必要があります。

企業にとって許認可制度は足かせ?追い風? ~許認可制度~

会社が営む事業の中には、自由に行わせると公共の秩序を害するなど、社会全体の不利益を招く可能性があるものがあります。例えば、電気やガスなどの社会インフラを支える業界について、どの会社も自由に行う事ができるとなると、過当競争のあまり粗悪なインフラを提供するなどの事態になりかねません。このような事業については行政的な目的から一律にこれを禁止し、一定の要件を満たした者のみ、その禁止を解除する措置等を行うことで、その目的を達成しようとする制度を許認可制度といいます。
そのため、自分が行っている事業がどのような許認可を取得しているか、また、どのような許認可を取得してなく、新たな事業を開始する場合にはどのような許認可が必要となるかを、十分に把握しておく必要があります。このように、新たなビジネスを開始しようとする場合には足かせになることもありますが、いったん取得すれば他の業者の参入を拒んでくれる会社の見方にもなり得るのです。
(許認可が必要となる業態例)
① 食品製造業・・・・食品衛生法など
② 医薬品製造業・・・・薬事法など
③ 飲食店業・・・・食品衛生法、酒税法など
④ 旅館・ホテル業・・・・旅館業法など
⑤ 建設業・・・・建設業法など
⑥ 金融業・・・・銀行法、金融商品取引法、貸金業法、保険業法など

過失が立証されなくても多額の損害賠償責任が? ~ 製造物責任(PL)法~

製造物責任法(ProductLiability略して「PL法」※以下PL法)は、被害者が製造者の過失を立証しなくても商品に「欠陥」があることさえ立証すれば、製造者に責任を負わせることができるという法律です。PL法が施行される以前は「薬品使用の副作用により身体に障害がでた」「欠陥自転車により事故を起こした」「突然家電が発火して自宅を焼失してしまったケース」など欠陥商品により大きな被害を受ける事があったとしても、販売者がその商品の欠陥を知らずに(かつ知らないことに過失がなく)販売してしまった場合、被害者側で立証できなければ製造側は責任を負う必要がなかったのです。
アメリカではPL訴訟によって多額の賠償金が払いきれずに倒産する企業が続発し、企業経営に重大な影響を及ぼした過去があります。経営者としては、どのような商品の欠陥がPL法の対象とされ、どのような対策を講じれば責任を免れるのか等、事前に知っておくべき必要があります。消費者にとって救われる法律ですが、企業にとっては大きな負担になるケースがあるため、企業経営問題に直結する法律ともいえます。

セキュリティ対策を講じてなかったことで取引ができない?~ 個人情報保護法 ~

2005年4月に完全施行となった個人情報保護法。個人情報とは生存する個人の情報であって、氏名、生年月日、住所、電話番号等により特定の個人を識別できるものをいい、他の情報と簡単に照合でき、結果特定の個人を識別することができるものも含むとされています。
なお、個人情報特定事業者(個人情報データベース等を事業者の事業のように供している者)には個人情報の取り扱いについて様々な義務が課せられています。
① 利用目的の特定(個人情報保護法15条)
② 利用目的による制限(個人情報保護法16条)
③ 適正な取得(個人情報保護法17条)
④ 取得に際しての利用目的の通知等(個人情報保護法18条)
この他、様々な義務が規定されていますのでしっかり確認することが重要です。
上記に該当するような個人情報を保有しているのであれば、個人情報の管理に関する社内規定の策定も必要です。ISMS(ISO27001)認証をとっていると企業と新規取引をする場合、セキュリティ管理票を提出する必要があり、ある一定の対策を講じていない場合取引ができないケースもありますので、日頃からセキュリティ対策を意識していくことも経営者に求められています。

多岐にわたる人事・労務に関する法律

昨今、長時間労働による問題が各メディアで取り上げられ、労働環境に関する議論が活発にされています。使用者と労働者との労働関係には多くの法律が関係してきます。
代表的な労働4法(労働基準法・労働組合法・労働関係調整法・労働契約法)を始め、男女雇用機会均等法、雇用保険法、育児・介護休業法 等々 多くの法律が施行されています。例えば使用者と労働者との労働条件の取り決めを行う場合、どのような手続きや考慮すべき項目があるのでしょうか?

労働条件の定めについて

使用者は、労働者を使用するにあたり、労働条件を定める必要があります。労働条件とは労働契約内容になりますので、使用者と労働者との合意によって定められることが原則となります。

就業規則の作成・届け出・周知義務について

常時十人以上の労働者を使用する使用者は、一定の労働条件を記載した就業規則を作成し、これを所轄の労働基準監督署長に届け出る必要があります。また、就業規則の作成にあたって、使用者は、労働数の過半数で組織する労働組合がある場合においては、その労働組合、これがない場合には労働者の過半数を代表するものの意見を聞く必要があり、届け出に当たっては当該意見を記載した書面を添付することとしていいます。
さらに使用者には就業規則を周知させることも義務づけられています。

労働条件の不利益変更について

経営状況の変化に伴い、労働条件を変更せざるを得ない状況になることもあるかと思います。ここで問題となるのは、賃金の引き下げなど労働者に不利な労働条件の変更を、使用者が一方的に就業規則の変更によって行うことができるのでしょうか?
この点について、労働契約法は原則として労働者の合意なく就業規則の変更によって労働条件が不利益になる変更は認められないとしつつ、変更後の就業規則を労働者に周知させ、修業規則の変更が労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものである時には、使用者が一方的に就業規則を変更して、労働条件を不利益に変更することも認められるとしています。
そのため、使用者は労働条件を労働者の不利益に変更したい場合、様々な条件を考慮した上で不利益変更が合理的なものであるか否かを慎重に検討した上で決定する必要があります。このように、労務に関する法律は労働条件の取り決め一つとっても様々な手続きや考慮すべき項目がありますので、全ての法律を経営者が把握することは難しいのが実情です。実際は労務に詳しい士業のアドバイスを元に規定を定めていくことが賢明でしょう。

いくつかの法律にまつわるテーマをご紹介させて頂きましたが、法律知識を身につけても、企業の売り上げアップにつなげることは難しいかもしれません。しかし法律を知ることで、万が一の法律トラブルから会社を「守る」ことができます。攻めの経営と守りの経営、両方バランスよく機能することで、より健全な企業経営につながるのではないでしょうか。