経営者の事業承継対策として認知症対策がなぜ必要なのか?

経営戦略

近年は、中小企業をはじめとして多くの企業が後継者不足という問題を抱えています。
そのため、事業承継のためには様々な対策を必要とするのですが、その対策の一つに認知症対策があります。
事業承継対策として、なぜ認知症対策が必要とされるのでしょうか?
また、具体的にはどのようにして対策をするのでしょうか?

なぜ、認知症対策が必要なのか

なぜ、事業承継の対策として認知症対策が必要なのでしょうか?
その理由となるのは、後継者不足による経営者の高齢化という点です。

企業の経営者は、従業員とは異なり定年退職などはありません。
80歳になろうが90歳になろうが、自分で引退しなければそのまま仕事をすることになります。
そのため、経営が順調であっても後継者がいない場合、経営者の高齢化が進むことになってしまいます。

高齢になると、どうしても認知症となる心配が出てきます。
認知症は、仕事や何らかの作業などをしているとなりにくいと言われたりもしますが、それでもなる人はいきなり認知症になってしまいます。
経営者として仕事をしているからといって、ならないとは限らないのです。

認知症というのは、物忘れが増えるだけではありません。
本来なら考えられないことをしたり、つじつまが合わない行動をしたりする場合もあるのです。
認知症が進行してくると、その傾向が顕著になってきます。

企業の経営者が認知症になってしまうと、色々と困ってしまうことがあります。
例えば、銀行口座の管理です。
中小企業では、銀行口座の管理を経営者自身が行っていることは珍しくありません。
しかし、認知症によって口座の管理が不十分となってしまうと、経営にも影響が生じます。

例えば、従業員への給与や銀行からの借入金の返済、また売上金や他社への支払いなど、全て口座から行うことが多いものです。
こうした金銭の管理が滞るようなことがあれば、たとえ資金が十分で経営が問題なかったとしても、不渡りなどを出して会社が倒産する可能性があります。

また、他社との契約を結ぶ際にも、契約書の内容を理解しないまま契約してしまう可能性や、問題がない契約であっても断ってしまう可能性などが生じます。
認知症になると判断能力も欠如してしまうので、正常な判断が下せない可能性が高くなるのです。

認知症となっていることを知られてしまい、不利な契約を持ちかけられるということもあり得ます。
その場合は契約を無効にできる可能性もありますが、相手が認知症だと知らなかったと主張する可能性もあり、裁判を起こさなければ解決できないこともあるでしょう。

このように、経営者が認知症となってしまうと様々な問題が生じます。
事業承継の時にこうした問題が起こらないようにするには、認知症対策をあらかじめしておく必要があります。
具体的な対策としては、どのようなことをするべきでしょうか?

事業承継対策としての認知症対策とは?

それでは、事業承継対策として認知症対策をする場合、どのような事をすればいいのでしょうか?
具体的な対策について、考えてみましょう。

まず覚えておきたいのは、認知症になってから対策をするのでは遅い、ということです。
認知症は誰もがなる可能性があるものとして認識して、まだ大丈夫と思わずに早めの対策を心掛けておきましょう。

認知症対策として、まず行うべきことは後見人を定めることです。
とはいえ、成年後見人では財産の維持管理がその役割となるため、企業の経営などは後見の範囲から逸脱してしまいます。
ですから、任意後見制度を利用しましょう。

任意後見制度は、成年後見制度とは異なり、裁判所に申し出る必要はありません。
ただし、被後見人が健常な状態のうちに後見人を選定して契約する必要があります。
具体的には、どう利用するのでしょうか?

任意後見制度の目的は、将来自分の判断能力が低下した際に、代理で財産の管理などを行ってもらうことです。
誰に依頼するか、またどこまでの権限を委託するかは、自分で選定することができます。
委託する内容をしっかりと決めたら、その人と任意後見契約を結びます。

任意後見制度の場合、成年後見制度とは異なり幅広い範囲の権限を委託できます。
財産の管理だけではなく、契約手続きなどを代行してもらうことも可能となるため、実質的に経営を任せるということもできるでしょう。

家族信託という選択肢もあります。
家族信託は、家族を対象とした財産の信託のことです。
例えば、法人の場合は自身が保有している株券を家族に信託するという形で、信頼できる家族に経営を委託することができます。

家族信託では、財産の管理や処分、運用などを委託することになります。
また、利益が出た際に誰がその利益を受け取るかも指定することができます。
その場合、利益を受け取る受益者となるのは、信託した委託者、委託された受託者以外の第三者であっても問題ありません。

例えば、創業者による家族経営の企業において、孫が将来会社を承継したいと考えている場合に、承継前に自分が認知症となって他の親族へと株式が分散してしまう事態などを防ぐために、その孫と家族信託契約を結んでおく、などの事例が考えられます。

家族信託も、任意後見制度と同様に自分が健常でなければ契約を締結することはできません。
経営を任せてもいいと思える家族に、自分の財産等を預けるための信託契約を結んでおき、認知症となった場合に備えておきましょう。

認知症は珍しいものではない

経営者の多くは、自分が死んだ後の会社の経営については心配しています。
しかし、意外と認知症になった場合の経営については考えていないのです。
その裏には、自分が認知症などになるわけがない、という思い込みがあります。

よく、気が抜けたら認知症が進行した、という話を聞くことがあります。
そのせいで、毎日仕事で忙しく気を抜く暇がないから、認知症になるわけがないと思っている人が経営者には多いのですが、実際にはそのようなことはありません。

年齢を重ねればそれだけ認知症になるリスクは高くなりますし、忙しい場合は認知症の進行速度が遅くなる可能性はあっても、発症そのものを防ぐことにはならないのです。
実際に、2025年には65歳以上の高齢者のうち、5人に1人は認知症となるといわれています。

認知症の初期段階は、ただものの名前が思い出しにくくなったり、ミスが増えたりするなど、加齢による衰えと区別がつかないものです。
それが徐々に進行してきて、気が付いたときには誰もが認知症だと分かるような症状になってしまうのです。

認知症と分かってからでは、対策をするのには遅すぎます。
生命保険のように、将来必ず必要になると考えて、元気なうちに考えられる認知症対策を行っておきましょう。

また、それと並行して、事業承継対策も進めておきましょう。
一番いいのは、問題が起こる前に次代へと事業を承継してしまうことです。
そのために、なるべく早いうちから考えうる事業承継対策を進めていき、後継者を見つけておきましょう。

まとめ

事業承継対策というと、後継者を見つけることや現在の事業についてわかりやすく引継ぎ、資料を作成することなどに目が行きがちですが、自身が認知症となってしまった際の対策についても考えておく必要があります。
経営者が高齢化してきた現在では、認知症が発祥してしまい会社の経営が滞ってしまうといった事態も少なくありません。
認知症になってからでは遅いので、発症しても大丈夫なように、あらかじめ対策しておきましょう。