ソウル雑踏事故での教訓、圧死とは何か?

事故・災害リスク

2022年10月29日、ソウルの梨泰院で多くの人が巻き込まれる雑踏事故が起こりました。
154人もの人が犠牲となったのですが、その死因の多くは『圧死』と言われています。
今後、同様の事故が起こらないよう教訓としておかなくてはならないのですが、圧死というのはどういったものなのでしょうか?
圧死とは何か、解説します。

圧死とは?

人の死因には、様々なものがあります。
様々な病気や多量の出血、呼吸困難で窒息するなどのケースが考えられますが、今回のソウルで起こった雑踏事故の犠牲者に多いのが、圧死でした。

圧死というのは、専門的に言えば外傷性窒息と言い、強い圧迫を受けたり体が押しつぶされたりすることで窒息して死亡することです。
例えば、地震で倒壊した建物の下敷きになった場合などは圧死となるのです。

ソウルの雑踏事故では、人が倒れることで多くの人が下敷きとなり圧死しました。
しかし、倒れた人が上に乗ったからと言って命を落とすことになるというのは、あまり想像できないでしょう。

人は呼吸をする際、筋肉がろっ骨を動かして横隔膜を上下させ、息を吸うときは肺を膨らませて息を吐くときは肺をしぼませるため、胸が動きます。
しかし、外部から圧迫されることでその動きができなくなってしまうと、呼吸ができなくなるのです。

呼吸というのは、空気を吸い込んで酸素を取り込み、二酸化炭素を吐き出すことです。
その際は、肺と横隔膜の動きが必要となるのです。
それができなければ、口が塞がれていなくても窒息死してしまいます。

今回の事故で圧死した方の多くは、主に胸を中心とした上半身に他の人がのしかかっていて、全く動かせない状態になっていたと思われます。
そのせいで、窒息したのでしょう。

また、圧迫は呼吸だけではなく、心臓の働きにも影響します。
胸部に圧力がかかっている状態では、体内を循環している血液が心臓に戻ってくることが難しくなってしまうのです。

心臓には、血液によって運ばれてくる酸素と栄養が必要です。
血液が戻らないと、酸素と栄養が不足してしまうことになるため、心臓が動かなくなってしまう心停止状態になるのです。

また、圧死は何人もの人が折り重なったときになるとは限りません。
たとえ成人女性の平均体重である50kgほどの人であっても、30分ほど上に乗ったままの状態でいると呼吸困難になり、生命の危機が生じてしまいます。
そのままの状態で1時間を超えると、死に至るケースも多いのです。

圧死が死亡原因となるケース

ソウルで起こった雑踏事故では、多くの死者が出ました。
その死亡原因の多くは圧死だったのですが、他にも圧死が死亡原因となるケースはあるのでしょうか?

圧死が死亡原因となるのは、地震などが考えられます。
1995年の阪神淡路大地震の際は、家屋の倒壊や家具の転倒などで体の上に障害物が乗り、圧死してしまった人がかなり多かったのです。

地震ではおよそ5500人が亡くなったのですが、そのうち8割近くの人の死亡原因が圧死でした。
また、2005年に起こったJR福知山脱線事故では約100人の犠牲者が出たのですが、先頭車両の犠牲者には圧死が多かったようです。

また、圧死する原因として大きいのが、今回のソウルの事故のような転倒です。
人が密集していたことが事故の原因ではあるのですが、そもそも転倒しなければどれだけ密集していても事故は起こりにくいのです。

特に今回はイベントのために群衆となっていたため、お酒を飲んでいた人も多かった可能性があります。
その場合、足元がおぼつかなくなり転倒リスクが増していたでしょう。

さらに、群衆の中では人から押されることで転倒する可能性があります。
そうなると、バランスを崩してさらに他の人を押してしまい、将棋倒しになるかもしれないのです。

特に、今回は近くに著名人が来ていたと報じられていたため、おそらくは一目見ようとした一部の群衆が一方向に動いたため、人を押しのけて転倒につながったのではないかと思われます。

また、群衆の中にいると全方向に人がいるため、逃げ場がありません。
その状態では全方向から圧力がかかる可能性が高くなり、圧死リスクも高まります。
一方向でも逃げ場があれば、転倒以外での圧死リスクはかなり低くなるでしょう。

今回の事故では、立ったまま死んでしまった人も少なくありませんでした。
人が集まっているときは人口密度がかなり高くなるのですが、1平方メートル当たり4人もいれば隙間はほとんどありません。

今回、特に密集していたところでは1平方メートル当たり10人以上にもなっていたと言われています。
そんな状態では、自分の意思で動くことすらできません。

群衆となった状態では、混雑の中で足を踏まれてしまったり服が引っかかったりするなど、様々な摩擦が生じます。
その中で1人でもバランスを崩すと、将棋倒しや群衆雪崩が発生してしまうのです。

群衆では、基本的に外から内に圧力がかかるので、中央部には全方向からの圧力がかかります。
そして、中央にいる人が倒れると、その隙間に向かってどんどん人が倒れていき、群衆雪崩が生じます。

日本では、明石の花火大会終了後に群衆事故が起こったことをきっかけとして、イベントの際の群衆警備について慎重になり、マニュアルも作られています。
そのため、大きな事故が起こる可能性はかなり低下しています。

しかし、身長が低い人やろっ骨などの骨が弱い人ほど、圧死リスクが高まります。
そのため、男性よりも女性、大人よりも子供のほうが圧死しやすいのです。
ソウルの事故でも、被害者の割合は女性が男性の2倍近く、10代から20代が多いという結果になっています。

圧死は、決して大きな原因があって起こるものではありません。
人が集まるだけで、圧死リスクが生じるのです。
そのため、人が多い場所では十分に気を付けなくてはいけません。

まとめ

韓国のソウルで起こった群衆事故では多くの犠牲者が出ており、その死因として多いのが圧死でした。
人体の構造上、胸部をある程度圧迫されるだけで窒息する可能性があるので、決して珍しいものではないのです。
群衆の中にいると、何らかのきっかけで圧死する可能性は十分にあるため、あまり中心部に行かないように気を付けましょう。