ソウル雑踏事故での教訓、政府や行政の危機管理意識と体制の必要性

事故・災害リスク

2022年10月29日にソウルの梨泰院で起こった雑踏事故では、300人を超える死傷者という大惨事が発生しました。
この事故で、政府や行政に必要な危機管理意識と体制が浮き彫りとなっています。
具体的に、どのようなことが必要なのでしょうか?
政府や行政に求められる内容について、解説します。

ソウル雑踏事故の原因

事故が起こった当時、ソウルの梨泰院ではハロウィンのイベントが行われていました。
梨泰院はソウル市のほぼ中心にあり、韓国で初めて観光特区に指定された韓国の代表的な繁華街です。

かつては周辺にアメリカ軍が駐屯する基地があり、アメリカ兵を対象とした店が多い「米軍のための町」でした。
しかし、1990年代にアメリカ軍基地がほほ別地域に移行したことで、梨泰院も様変わりします。

現在では、多文化・多国籍地域となっていて、外国人が2万人以上住んでいるのです。
約2000軒の店舗が並び、経営者も世界各国から来た人なので、世界の文化を味わうことができる地域として若者を中心に高い人気があります。

また、韓国におけるハロウィン文化は梨泰院が発祥と言われています。
ハロウィン時期には、梨泰院近隣に住んでいる外国人がその周辺でハロウィンを行い、それが広まって大きく盛り上がっているのです。

ハロウィンイベントには、2011年頃から毎年およそ10万人が集まっています。
警察も毎年警備をしていて、今年は大ヒットした「梨泰院クラブ」という韓国ドラマの影響で、イベント参加者は例年よりも多い13万人以上になると予想されていました。

梨泰院を管轄する龍山警察署でも、今年はコロナの規制緩和後初めてのハロウィンイベントなので、かつてない規模の参加者が来ると予想していました。
そのため、当初は200人の警察官を動員する予定だったのですが、実際動員されたのは137人でした。

13万人以上に対して137人というのは、いかにも心もとない人数です。
しかも、その人員は現場の安全管理を目的としているのではなく、主に麻薬事件や性犯罪などに備えることでした。

また、梨泰院を管轄する自治体の龍山区でも、交通管理や安全管理のための人員を配置していません。
そのため、現場には安全管理のための人員が誰もいなかったのです。

大勢の人が訪れることは予想していたのに、混乱を治めるための人員を一切派遣しない対応となったのは、何故なのでしょうか?
その背景には、政府が作成していた「イベント安全管理マニュアル」というものがありました。

そのマニュアルには、瞬間最大参加人数が1000人を超えると予想されるイベントを実施する場合、イベントの主催者は開催される30日以上前までに、自治体に安全管理計画を提出しなくてはならない、とされているのです。

イベントの開催時は、主催者や自治体が安全確保のための人員を配置して、警察が安全確保計画に基づいてイベント会場周辺を管理することとなっています。
マニュアルでは、イベントの安全確保は官民が協力して行うことを勧告しています。

梨泰院のハロウィンイベントでも、このマニュアル通りであれば安全確保のための人員が配置されたうえで警察官が周囲をパトロールするはずでした。
しかし、行政ではこのマニュアルを、梨泰院のイベントには適用しませんでした。

なぜかというと、このマニュアルはあくまでも主催者がいる地域イベントを想定して定められているものであり、梨泰院で行われるハロウィンイベントには主催者がいないため、マニュアルの対象にならないからです。

その判断に基づいて、このイベントに対しては政府や自治体、警察には管理責任がないものと解釈して、安全対策を講じていないのです。
しかし、以前は同イベントに警察機動隊が投入されたことや、警察官が参加者の誘導のためにポリスラインを設置していたこともあるため、今更関係ないというのは説得力に欠けるでしょう。

政府や行政の発言から見える危機管理意識

今回の雑踏事故に対しては、政府や行政の対応に不満の声も上がっています。
市民の安全を確保するのが役割ではないのかという批判もあり、専門家からも災難や事故から国民の生命・身体を保護しなくてはならない、と災害安全法で定められているので、責任がないとは言えないと指摘されています。

そうして事故が起こった梨泰院での警備体制に不備があったと指摘する声が上がる中で、ソウル市龍山区のパク・ヒヨン区長の発言が新たな火種となっています。
テレビのインタビューで、区長は対策を講じ、できる限りのことはやったと発言しています。

そのうえで、事故が起こったものはイベントではなく、主催者もおらずイベントとしての内容もないため、1つの現象でしかないと発言しています。
そのため、国は安全管理責任がないとしているのです。

発言を聞いた人々からは、責任逃れだという批判が続出しています。
また、大統領の側近である行政安全部長官も、警察官を増やしたとしても解決できる問題ではなかったと発言し、政府の対応には問題がないと強調していたのですが、これも批判の的となっています。

長官の発言は、警察の警備が行き届かなかったせいで事故が起きたのではなく、あくまでも現場にいた人の注意不足が原因で事故が起こったという意味にとられたのです。
そのせいで、批判を受けました。

長官は、国民からの批判について問われると、その声を政治的な扇動と規定して、そういった主張はしてはいけないと語っています。
政府高官の発言は政府の公式見解として扱われるのですが、大統領府はこの発言に対して訂正や否定をすることがなかったため、これが公式見解であると判断されています。

韓国政府や龍山区では、自己の責任が自分たちにないと責任逃れをするのではなく、今回の事故が起こった経緯を真摯に受け止めて、再発防止に努めるべきでしょう。
また、ほかの自治体でも他人ごとと無視するのではなく、教訓として危機管理意識を高め、事故が起こらない体制づくりをしておくべきです。

まとめ

韓国・ソウルの梨泰院で起こった雑踏事故は、多くの死傷者が出た大規模なものでした。
その事故についての責任がどこにあるのかは判断が難しいのですが、やはり政府や行政が事故を予見して適切な対応をしていれば、被害はもっと抑えられたか、あるいは事故そのものを防ぐことができたのではないかと思えます。
今後、同じような事故が起こらないように、危機管理意識を高めて体制づくりをしておくべきでしょう。