役員退職金が否認されてしまう事もあるのを知っていますか?

団塊の世代など、会社の発展に大きく貢献して来た世代が続々と定年を迎えています。そこで問題になるのが退職金です。貢献度が大きいほど退職金もたくさん支払いたくなる事が経営者だと思いますが、取締役等の役員への退職金は、その額が大きくなればなるほど税務調査が厳しくなってしまい、否認されるリスクも出てくるのです。
今回は役員退職金が否認された場合のリスクについて解説させて頂きます。
役員退職金が否認されるリスクとは?
役員退職金は法人税法上、損金として処理する事が認められています。
つまり、退職金を支払いながら節税対策もできることから、上手に退職金を支払う事ができれば手元に残るお金も増やす事ができるのです。
しかし万が一、否認された場合には大きなリスクが伴います。
役員の退職金となれば、その会社への貢献ども計り知れないものですから、従業員との退職金と比べると大きな金額になります。
だからこそ、節税にも繋がるという訳ですが、逆にコレが損金と認められなかった場合、企業側は追加で膨大な税金を支払わなければなりません。先ほど触れたように、高額である場合がほとんどですから、場合によっては会社が傾いてしまうほどのダメージを与える可能性を秘めています。
また、役員退職金の否認は受け取る側にもリスクがあります。
所得税法の中で、特に低い税率で設定されているのは退職金です。
税率は通常の半分になりますし、退職所得控除額を差し引く事ができるので、少ない税金負担で退職金を受け取る事が可能です。
しかし、役員退職金が否認されてしまうと、退職金ではなく賞与としてみなされてしまうため、コレらの優遇は対象外になってしまいます。
つまり、所得税が非常に大きくなり、支払わなければならない税金も高額になってしまうのです。
このように、役員退職金の否認は、企業にとっても個人にとっても大きな痛手になるリスクを持っているのです。
だからこそ、否認されない方法で役員退職金を支給する必要があるのです。

役員退職金が否認されないためには?
役員退職金が否認される原因は大きく3つに分ける事ができます。
ここではその3つを順番に解説させて頂きます。
まず、一つ目は、「役員退職金の金額が合理的ではない」場合です。
要するに、明らかに高額すぎる場合などは否認されてしまいます。
ここでの「高額すぎる」というのは、同業や同規模の他社と比べた場合になります。
一般的に役員退職金は、退職者の最終月額報酬や役員在任年数、功績などを軸に計算される事が多いです。コレを功績倍率法と言い、以下の数式で計算する事ができます。
「役員退職金=最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率」
月額報酬や在任期間は説明なしでもご理解いただけると思いますので、功績倍率について詳細をお伝えします。
功績倍率は役職に対して一般的な相場があります。基本的にはこの相場内に収まるように退職金を計算します。
具体的には、社長3倍、専務・常務2.5倍、平取締役・監査役2.0がそれぞれの倍率相場になります。
例えば、月収100万円、社長年数20年の社長がいるとします。
この社長の退職金相場は以下で求められます。
「退職金=100万円×20年×3倍」となりますので、この場合であれば6000万円の退職金が相場となります。
しかし、この計算式はあくまで相場を出すものです。
計算した結果、同業他社と比べてあまりにも高額などの場合は、調整が必要になる場合もあるかと思いますので、計算して一安心というわけではありません。
否認される原因の2つ目は、「株主総会での決議がされていない、または議事録に残されていない」場合です。
会社法上、役員退職金を損金として処理するには、株主総会での決議が必須事項となっております。
コレは株主が一人しかいないオーナー企業であっても、形式上は株主総会の決議は必要で、その決議内容を議事録として残しておかなければなりません。
決議内容として必要なことは、退職金の金額やその算出方法です。
しかし、取締役会を設置している企業の場合であれば、総額のみ株主総会で決議し、実際の金額や算出方法を取締役会での決議に任せる事ができます。
税務調査で最も注目されるのは、退職金の算出方法です。
そこに根拠があるのか、ないのかが非常に重要になりますが、先ほど紹介した功績倍率法に基づいて算出した結果であれば、大きな問題になる事は非常に少ないとは思います。
ここで1点注意しておきたい事として、「退職慰労金規程」に功績倍率法による計算すると明記しておきましょう。コレがあれば、万が一税務調査が入った場合にも、退職金算出の根拠として提出する事ができます。
3つは、「退職後も重要な地位を占めている」場合です。
つまり、退職後の立場が重要です。
立場については判断が少し難しいのですが、基本的には実質的な判断がされる傾向があります。具体的には、「給料が明らかに上がっている」や「出勤日数が減った」などの形式な部分よりも、権限等をどれほど握っているかなどが注目されます。
後継者は存在しているが、実質全ての権限は退職後も持っている、というような状況では否認される可能性が高いと言えます。
そのため退職前から、後継者が全権掌握できるように準備を進めましょう。

役員退職金否認例から学ぼう
これまで役員退職金が否認されることのリスクや否認の回避方法について解説させていただきました。
ここでは、実際に退職金が否認された案件を見て、より理解を深めましょう。
金額や形式上の不手際による否認は、解説するまでもありませんので、上記で三番目の理由としてあげた、「退職後の地位」の2つの例をあげさせていただきます。
一つは、少し古いですが平成2年2月15日裁決の事案です。
否認された理由は、「退任時に65.5%以上の株を保有する大株主であること」「取締役会にも出席し、従業員に指示を行なっている」「海外取引業務にも広く関わっている」などがあげられます。
他にも、平成16年6月25日裁決の事案で、
「退職後もなお主要取引先において、社長として取引の窓口になっていた」「現代表取締役は、就任3カ月前に取締役になったばかり」「退職した代表者の親族が100%株を保有する同族会社であること」が理由で否認されています。
これらの事案を見てもわかるように、退職後も従業員に指示を与えるなどはかなり否認の対象になりやすい事がわかります。
そのため、できるだけ退職後は従業員への指示を出さないようにしましょう。
特に、取締役会に万が一出席するにしても、重要な事項の決定時などは意見を控えるなどが必要になります。
創業者であればあるほど、これは難しい事だとは思いますが、役員退職金の否認により会社自体が傾く恐れもございますので、ぐっと我慢するようにしましょう。
他にも、社外へ代表等が変わることを公表するようにしましょう。
具体的には挨拶文をお送りするなどが効果的かと思います。
先ほど見ていただいた事案でも、退職後に社長として取引先の窓口になっていたとありましたが、このような事が起きないためにも社外への公表は必ず行うべきです。
また、万が一税務調査があった場合に、あまり前に出ないことも重要です。
ついつい迷惑をかけまいと退職後であっても、税務調査に首を出してしまいがちですが、これでは誰が社長かわからず、印象としてもよくありません。
退職者じゃなければ分からないこと以外は、できるだけ任せるようにしましょう。

重要なことなので、何度も言いますが役員退職金の避妊は大きなリスクが伴います。できるだけ慎重に、前準備をしっかりして行うようにしましょう。